元地下アイドルが農業再生の担い手に うきは市で笑顔の日々

梨棚で重松さん(右)や沢水さん(左)と一緒に剪定作業を行う野口さん(2025年12月20日、福岡県うきは市で)

 福岡県うきは市で、農業のビジネススクールの卒業生らのグループが、放置された梨園の再生に取り組んでいる。中心メンバーの野口実咲さん(34)は、元地下アイドルという経歴を持つ。東京から移住して農業に出会い、やりがいを見いだしたという。「元気を取り戻した梨園の梨を、多くの人に食べてもらいたい」と意気込んでいる。

ライブハウスから梨園に

 「この枝は残したほうがいいよね」「2、3年先を見越して切っておこうか」

 年の瀬の2025年12月20日、うきは市の山間部に広がる20アールの梨園に明るい声が響いた。20本ほどが植えられ、グループの約10人が果樹農家・沢水司さん(46)から剪定(せんてい)作業を実践しながら学んでいた。

 グループメンバーは福岡、佐賀などの20~70歳代の約50人で、職業はITや電力会社勤務、公務員など様々。月2回の土曜日の活動に各自参加する形という。

 この日の作業には野口さんの姿もあった。背丈くらいの高さの梨棚に手を伸ばし、枝を一本一本選びハサミで切り落としていた。「実に栄養が届くように考えながら切っています」と汗をぬぐった。沢水さんは「荒れた農地を元に戻すのは難しく、若い力はありがたい。明るく率先して取り組む野口さんの存在は大きい」と語った。


地下アイドル時代の野口さん=本人提供


 野口さんは3年前まで、テレビの露出が少なく小規模ステージを拠点とする地下アイドルをしていた。


 東京都品川区で生まれ育ち、都内の大学を卒業後、いったんは一般企業に就職した。営業職の激務と体育会系の社風に疑問を感じ、約2年で退社。芸能事務所を設立する元営業先に誘われ、挑戦しようと思った。

 アイドルユニットでデビューし、都内のライブハウスで観客の声援を浴びながら歌って踊り、CDも出した。刺激的な毎日だったが、30歳を迎え、「人生の次のステージを考えるようになった」。2022年10月にアイドルを卒業し、縁ができた福岡市に居を移した。自然が身近にある暮らしへの憧れもあり、迷いはなかった。

こんなにのめり込むとは

 農業への「目覚め」は偶然だった。知人の勧めで福岡県朝倉市にある農業のビジネススクールのイベントに参加した。そこで食べた生のホウレンソウのおいしさに感動した。「私も作りたい。農業が次のステージ」と直感し、23年4月に入学した。

 有機農法などを1年間学ぶスクールの1期上に、沢水さんと、当時うきは市副市長に出向していた経済産業省九州経済産業局の重松邦英さん(53)がいた。2人は、沢水さんの両親が高齢で管理できなくなった梨園を再生させるグループを卒業生らと作ったところだった。野口さんも入学間もなく誘われ、即決した。

 活動は23年春にスタートした。化学肥料ゼロ、最低限の農薬使用をモットーに沢水さんの指導の下、施肥や草刈り、実の袋かけを行う。沢水さんが他の農地の世話に忙殺される夏場は、メンバーだけで作業する。


「うきは市で農業に貢献したい」


 1、2年目は収穫前に落果した。3年目の25年、実が2000個できたが、カラスにつつかれ、なんとか100個を収穫した。野口さんは「『ここまで育てたのに』とショックで悔しかった」と振り返る。一方、農業の大変さも知り、「農家さんへの感謝や尊敬の気持ちも強まった」。


 野口さんはほぼ全ての活動に参加する。活動計画を立てることを任され、メンバーへの連絡役も担っている。梨の木が年々元気になっていく様子にうれしさと喜びを感じる。

 24年春にうきは市に引っ越した。市の地域おこし協力隊に就任し、農業の魅力のネット発信も始めた。アイドルとは全く違う環境だが、充実感にあふれている。「梨作りにこんなにのめり込むとは思わなかった。大好きなうきは市で農業に貢献したい」と笑顔を見せた。


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