ばあちゃん手作り「蜜な干し芋」 6次化商品で福岡県知事賞に
記事 INDEX
- 地域の高齢者と若手で
- 規格外の芋を有効活用
- 自慢の干し芋は大人気
「蜜が詰まった甘い干し芋ができました」。福岡県うきは市で高齢者の働く場づくりに取り組んでいる会社「うきはの宝」と、地元の若手農家が手を携えて開発した干し芋が、優れた6次化商品をたたえる県のコンテストで知事賞に輝きました。2月4日に福岡市で表彰式があり、同社で働くおばあちゃんが笑顔で賞状を受け取りました。
地域の高齢者と若手で
6次化商品とは、農林漁業、製造、小売業など、1次、2次、3次産業の連携により価値を高めた加工品。コンテストは、県産品の魅力向上と販路拡大を目指して10年ほど前に始まり、2年前から「ふくおか6次化商品セレクション」として開催しています。
今年度のコンテストには42点が応募。バイヤーや料理人、商工会関係者など8人の審査員が、▽ストーリー性▽県産品へのこだわり▽独創性▽市場性――といった観点から受賞の11点を絞り込みました。
県知事賞を獲得したのは2点です。このうち、うきはの宝の干し芋は、地元の若手農家が育てたサツマイモをお年寄りが加工した商品で、「地域への思いと商品のストーリー性」が高い評価を受けました。
うきはの宝は、高齢者の働く場や生きがいを生み出そうと2019年に創業。現在は75歳以上の4人を雇用し、サポートする若手スタッフを含む計10人で食品の製造や開発などを行っています。
福岡市中央区の六本松蔦屋書店で行われた表彰式には、同社の國武トキエさん(77)と内藤ミヤ子さん(87)も出席。國武さんは「芋を育ててくれた人や、食べる人のことを考えながら作りました。思いが報われました」と喜びを語りました。
審査委員長を務めた福岡女子大学の新開章司教授(食料経済学)は「高齢者の活躍の場、若手との連携、さらに地域への波及効果を考えると素晴らしい取り組み」と話していました。
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規格外の芋を有効活用
商品は、規格外のサツマイモを有効活用したい――という思いから誕生しました。原料は同社近くの農園「ハミングファーム」でとれた紅はるか。「子どもに食べてほしくて、甘くておいしい野菜を育てています」と話す農園主の池尻翔太さん(27)は、大きすぎたり小さすぎたりして売れない作物に頭を抱えていました。
久留米市出身の池尻さんは、テレビ番組「鉄腕DASH」にあこがれ、19歳から全国の農家に住み込みで働きに出ていました。3年ほど前にうきは市へ移住し、耕作放棄地を借りて農園を開きました。
最初にできた芋はほとんどが規格外。「地主さんが飼っているヤギがおいしそうに食べてくれました」と振り返ります。そんなとき、うきはの宝の社長、大熊充さん(43)らと地域のイベントで出会い、規格外の芋を使った商品の開発が始まりました。
サツマイモは収穫後に熟成させると糖度が増します。温度を一定に保った倉庫で60日間保管し、ばあちゃんたちに届けるところまでが池尻さんの仕事です。一部は、香ばしくなるように焼き芋にしました。
自慢の干し芋は大人気
うきはの宝では、池尻さんのサツマイモをよりおいしく加工する方法をいろいろ試しました。特に、食感が大きく変わる蒸し加減に苦労したそうで、何度も試作を重ねた末、ねっとり食感で糖度も抜群の「密な干し芋」が完成しました。國武さんや内藤さんらが一本一本、手作業で蒸し、皮をむき、丁寧に干して作ります。
コンテストの表彰式後にはマルシェも開かれ、受賞者らが買い物客に商品をPRしました。池尻さんも加わり、「自分が作った芋をおいしく食べてもらえてうれしい。今度は人間に『ウメェー』って言ってほしいですね」と喜んでいました。
受賞した焼き芋タイプの干し芋は完売し、今季の生産はすでに終わったそうです。現在は同じシリーズの焼いていないスタンダードタイプを作っており、同社の通販サイト「ばあちゃん飯」で取り扱っています。
うきはの宝の大熊さんは「みなさんに評価してもらえてうれしいです。ほかにも商品開発を進めており、お年寄りの雇用とともに若い仲間も増やし、多世代で仕事ができる地域にしていきたい」と話しています。