「ばあちゃん新聞」まもなく創刊 お年寄りに元気を届ける全国紙

「ばあちゃん新聞」の紙面イメージを見ながらアイデアを出す”ばあちゃん”たち

記事 INDEX

  • 生き生きと輝く姿を発信
  • 全国のお年寄りをつなぐ
  • ばあちゃんへの恩返し…

 料理、ライフスタイル、ファッション――。生き生きと暮らすお年寄りの話題をお年寄りに届ける全国紙「ばあちゃん新聞」が11月に創刊されます。福岡県うきは市で高齢者の就労支援に取り組んでいる会社が月に1回発行。全国に15支局あり、軌道に乗れば、”ばあちゃん”や“じいちゃん”を雇用し、取材で活躍してもらう予定です。担当者は「『こんなに元気な人がいるのか』と読者の刺激になれば」と話します。

生き生きと輝く姿を発信


笑顔が絶えない編集部

 ばあちゃん新聞は11月上旬の創刊を目指し、高齢者の働く場を創出する会社「うきはの宝」で編集作業が進められています。

 「活発に活動する人を取り上げてあちこちに発信したい」「切り抜いて読み返したいと思うような、里山での生活の知恵も載っているといいわ」「人生相談や家族とのつきあい方も聞きたい」

 9月上旬に編集部を訪ねると、紙面レイアウトのイメージを手にした女性たちが意見を出し合っていました。


山本さんの取材に応じる(左から)國武さん、内藤さん、内山さん

 声の主は、同社で働く國武(くにたけ)トキエさん(76)、内藤ミヤ子さん(87)、内山ケイ子さん(82)の3人。副編集長の山本名々恵さん(38)が紙面に載せる人生相談コーナーを執筆するため取材を進めていきます。

 人生相談は、SNS上で「悩み」を募集し、ばあちゃんたちが回答する企画です。山本さんが「人との上手なつきあい方」を尋ねると、國武さんは「(人間関係で)モヤッとするときもあるでしょ。そういうときはぐっとこらえて、ナンマンダブって3回言ってごらん。落ち着いてから物事を考えるの」とアドバイスしていました。

 創刊号では、インタビュー記事のほか、季節の田舎料理などのレシピ、ファッションやヘアスタイル特集、まねしたくなるような暮らしを伝えるフォトエッセーなどを予定しています。


ばあちゃんたちも意見を出し合う

 同社は、「おばあちゃんたちの働く場を創(つく)り『生きがい』と『収入』を創出する」といった理念を掲げ、2019年に誕生しました。現在、75歳以上の4人を雇い、サポートする若手スタッフを含む計10人で食品製造や商品開発などを行っています。「ばあちゃん飯」の名で、懐かしく素朴な味の総菜や菓子を、道の駅や通販サイトなどで販売しています。


イベントにも出店して総菜などを販売(うきはの宝提供)


 新聞発行は会社発足5周年に向けた新たな事業として企画。タブロイド判のカラー12ページで、1部330円(税込み)、年間購読料は5640円(送料込み)です。発行部数3000~5000部、2年目以降は1万部を目指します。

 社長の大熊充さん(43)は「高齢者が輝く姿、ばあちゃんが知っているSNSでは得られない『暮らしのヒント』や『生きる知恵』を全国に届けたい」と話します。


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全国のお年寄りをつなぐ

 編集作業は当面、大熊さんと山本さんらが担当しますが、将来的には、ばあちゃんライターや、じいちゃんカメラマンを雇って、より高齢者の視点に立った新聞づくりを進めていく考えです。ライターらには書いた記事の本数などによって謝礼を払い、購読料と企業からのスポンサー収入で運営します。


「ばあちゃん新聞」の題字は朝倉支局の”ばあちゃん”が手がけた

 取材対象は、同社で働く高齢者を手始めに、地元のお年寄りにも声をかけていくことにしています。大熊さんの友人ら新聞発行に賛同してくれた仲間が各地の支局長を引き受け、地域のお年寄りへの取材、新聞販売などで協力してくれるそうです。「ばあちゃん新聞」の題字も、書道が得意な朝倉支局の”ばあちゃん”が担当しました。


全国15支局でスタート!(うきはの宝提供)


 取材拠点は全国15支局でスタート。福岡県を中心に、五島(長崎県)、奄美大島(鹿児島県)などの離島もカバー。大阪、名古屋、東京などの大都市圏にもネットワークを広げています。


応援購入を募集している「Makuake」のページ

 8月にクラウドファンディングのサイト「Makuake」で応援購入を募り始めたところ、初日で目標金額の20万円を突破しました。募集は10月30日までで、2日時点では約200人から120万円あまりが寄せられています。

ばあちゃんへの恩返し…

 大熊さんが会社を設立したのは、約20年前の交通事故がきっかけです。肩を粉砕骨折する大けがを負い、入院生活が4年ほど続いたといいます。社会からの孤立を感じ、精神的にも不安定になりました。

 そんな中、救いとなったのが同じ病室の”ばあちゃん”たちでした。毎日声をかけてくれ、ふさぎ込んだ気持ちも癒やされていきました。「今の自分があるのは、ばあちゃんたちのおかげ」と大熊さんは振り返ります。


「ばあちゃんにスポットライトを当てたい」と大熊さん


 退院して地元に戻った大熊さんは「ばあちゃんたちに恩返しを」と、自家用車で高齢者の無料送迎を始めました。その車中の会話で「まだ働きたい」「家庭の外にも居場所がほしい」「年金生活の足しになる収入があれば…」といった声を耳にします。


高齢化に直面しているうきは市(妹川地区で)

 高齢化問題に直面している地元・うきは市。お年寄りの特技を生かし、若者と手を携えることで、田舎を元気にするモデルケースをつくりたいと会社をおこしました。

 うきはの宝では、「婆(ば)ウムクーヘン」といった菓子を新たに開発し、お年寄りの輝く姿を発信するYouTubeチャンネル「ユーチュー婆」も始めました。YouTubeでは、ばあちゃんらが得意料理を紹介し、ユニークな掛け合いも楽しめます。



 「デジタル化の時代ですが、手にして読んだり、記事を切り抜いたり、ばあちゃんのぬくもりが伝わるツールとして新聞を選びました」と大熊さん。「食事や暮らし、家族との関わり方など、時代が変わっても残しておきたいものを載せていきたい」


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