【熊本】球磨焼酎を楽しむ列車の旅 人吉出身のCAが企画

 九州豪雨で被災した熊本県人吉・球磨地域のローカル線「くま川鉄道」と焼酎蔵の復興を後押ししようと、人吉市出身で日本航空(JAL)の客室乗務員恒松さやかさん(28)が特別列車で球磨焼酎を堪能できるツアーを企画した。県担当の「JALふるさとアンバサダー」として準備を重ねて2月に無事に終え、「復興へ立ち上がる地域の魅力を伝えられた」と語る。

くま川鉄道で蔵巡り

 2月中旬、くま川鉄道の肥後西村駅(錦町)で歓迎式が開かれた。地元中学生の演奏で「球磨焼酎特別列車」が出発した。
 「日本の現役路線で唯一『幸福』とつく駅です」。おかどめ幸福駅(あさぎり町)で、恒松さんの車内アナウンスが響いた。続けて「駅前の黄色いポストから手紙を送ると、思いが届くと言われています」と駅の特徴を解説した。
 車両1両を貸し切り、湯前駅(湯前町)まで18.9キロを往復する。関東や県内から応募した約15人が参加し、蒸留方法などが異なる約10種類の球磨焼酎を味わった。恒松さんは「ようやく古里への思いを形にできた」とほほ笑んだ。


車内で沿線や球磨焼酎の魅力を解説する恒松さん


 恒松さんは福岡市の大学を卒業後、2017年にJALに入社。20年以降の新型コロナウイルスの感染拡大で乗務は月数回に減った。勤務は在宅ワークが中心となり、「先行きが見通せず、不安が募った」という。
 20年7月4日、薄暗い日常に豪雨が追い打ちをかけた。都内の自宅でニュース映像を見てがくぜんとした。幼少期から親しんだ球磨川が氾濫。実家は被災を免れたが、友人らの自宅は浸水被害や幹線道路の寸断によって孤立していた。
 「真っ先に駆けつけたい」。思いとは裏腹にボランティアは県内在住者に限られ、帰省できたのは約1年半後だった。人吉市中心部は被災した建物が取り壊されて空き地だらけだった。「何もできることがなかった」ともどかしさが膨らんだ。

復興を後押しする力に

 社内でアンバサダーの募集が呼び掛けられたのが、ちょうどその頃。「地元に役立てる絶好の機会」と手を挙げ、22年3月に熊本県への赴任が決まった。半年以上をかけて考案したのが特別列車だった。
 くま川鉄道は21年秋に部分運行を再開したが、残る5.9キロで運休が続く。再開は25年度中となる見通しだ。蔵元は人吉・球磨地域の27のうち約3分の1が被災した。路線も焼酎蔵も傷ついたが、体感するきっかけをつくり、再訪してもらえれば継続的な支援につながると考えた。

 当日は複数の酒蔵をバスで巡り、焼酎の飲み比べも楽しんだ。参加者からは「電車がレトロでかわいかった」「おいしいお酒をありがとう」といった感想と第2弾に期待する声が寄せられた。
 ツアーを支援した県は特別列車の定期運行について、くま川鉄道と可能性を協議する方針だ。恒松さんは「また訪れたいと思ってもらえる旅の思い出となっていれば、うれしい」と笑顔を見せた。

<JALふるさとアンバサダー>
日本航空が2020年から始めた地域活性化の取り組みで、2月末現在、全国17か所に20人が赴任している。アンバサダーを務めるのは現役の客室乗務員で、ふるさとやゆかりの深い地域で暮らし、柔軟な発想を生かしながら観光振興や魅力発信を進めている。


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