【大分】豪雨で被災した天ヶ瀬温泉の老舗2旅館が再開へ
2020年の九州豪雨から、7月で3年。濁流にさらされ休業を余儀なくされた大分県日田市・天ヶ瀬温泉の老舗旅館2軒が、5月から6月にかけて営業を再開する。氾濫した玖珠川のほとりに並び立つ「旅館本陣」と「天龍荘」。この2軒が予定通りオープンすれば、ゴルフのシミュレーション施設へと業態変更した1軒を含め、営業中に被災した温泉街の旅館9軒のすべてが再開を果たしたことになる。
旅館本陣
明治期の1910年創業で、映画「男はつらいよ」のロケが行われたことでも知られる。九州豪雨では木造3階建ての旧館1階に濁流が押し寄せ、大規模半壊。社長の大庭正徳さん(37)は「廃業も頭をよぎった」と振り返る。
そんな中、常連客らから寄せられた励ましの手紙や電話が前を向く力になった。被災した年の暮れには再建に取り組む決意を固め、もともと売りにしていた「愛犬と泊まれる宿」を突き詰めた。
旧館を解体して1.2メートルかさ上げし、防音効果がある鉄筋コンクリートの2階建てに造りかえた。客室は以前の7部屋から5部屋に減らし、大浴場をなくす代わりに各部屋に風呂を備えた。犬専用の浴槽を別途設けるなど愛犬家に寄り添った造りにこだわった。
5月1日に「温泉旅館HONJIN」として再出発する。大庭さんは「(自社の取り組みが)天ヶ瀬温泉を多くの方々に知っていただくきっかけとなり、地域全体の活性化につながれば」と話す。問い合わせは温泉旅館HONJIN(0973-57-2317)へ。
天龍荘
江戸後期、1839年(天保10年)創業の老舗。明治維新の志士、大村益次郎をはじめ著名な歴史上の人物が湯治に訪れた記録が残る。被災前は鉄筋と木造の計3棟。被災後、木造の2棟は老朽化が進んでいたこともあって解体し、残る1棟の大規模改修に踏み切った。
7代目社長の大庭龍一さん(71)は被災後の惨状を目の当たりにして、廃業もやむを得ないと考えたという。旅館の命である温泉に問題が生じたためだ。それまで70~80度はあった自前の泉源の温度が20度台に下がってしまった。その後、一帯に給湯している業者から「お湯を買う」手はずが整ったこともあって再建を決めた。
以前の11部屋を8部屋に絞り、段差を極力なくすことで「お年寄りや、障害がある方々が家族とゆっくりくつろいでいただける宿づくり」に心を砕いた。「今後は復調の兆しが見えるインバウンド(訪日外国人客)に対するアピールも重要になる」と先を見据える。
6月初旬のオープンを予定している。問い合わせは天龍荘(0973-57-2370)へ。