【熊本】豪雨で被災した植物標本が修復されて人吉に帰還

 九州豪雨で被災した熊本県人吉市の人吉城歴史館に収蔵されていた植物標本が、全国の博物館などで修復を終え、次々と返還されている。同館では施設の復旧作業が続き、現在も休館しているが、運営する市は「心を込めて修復された標本をいつか展示し、恩返ししたい」と早期再開を目指している。

3万3000点 全国へ「レスキュー」


修復を終えて返還された植物標本(5月30日、人吉市で)

 標本は、南関町出身で南九州の植物研究家として知られる前原勘次郎(1890~1975年)が国内外で採集した約3万3000点。人吉球磨地方を中心に集められた資料を活用しようと、市が家族から購入し、厚紙に貼られた状態で城内のやぐらに保管していた。2020年7月4日の豪雨では、近くを流れる球磨川が氾濫し、やぐらが高さ約2メートルまで浸水したため、ほぼ全ての標本が泥水につかるなどの被害を受けた。

 市は同6日、県を通じ、修復を支援する「標本レスキュー」を全国の博物館や研究機関に依頼した。東日本大震災の被災地支援で行われた取り組みで、これを機にできた学芸員らの連絡網を活用して受け入れ先を探した。カビや腐敗を防ぐため、冷凍設備を備えた施設に順次搬出された。

約40機関が無償で作業

 今回のレスキューには、国立科学博物館(東京都)のほか、前原と交流があり、「日本の植物分類学の父」と呼ばれる牧野富太郎ゆかりの高知県立牧野植物園(高知市)など約40機関がボランティアで参加。標本に付着した泥を筆やスポンジで落とし、アルコールを噴霧してカビを取り除いた後、新聞紙に挟んで乾燥させる作業などが行われた。

 被災した標本の約6割が人吉市に返還され、高台にある施設で保管されている。国立科学博物館によると、修復された中には、学名を付ける際の基準となる貴重な標本も多数含まれていたという。牧野植物園の藤川和美研究員は「保管されている標本の多さに驚いた。郷土の宝を残してあげたい、との思いで作業を進めた」と振り返る。

人吉城歴史館「恩返ししたい」

 人吉城歴史館は豪雨で窓ガラスが割れ、展示物が損傷するなどの被害を受けた。来年度中の復旧完了を目標に掲げており、市教育委員会文化課の手柴友美子さんは「厚紙がふやけ、植物の色がにじみながらも戻ってきた標本を見ると、大切に修復していただいたのが伝わってくる。復旧の道のりは長いが、皆さんの支援を励みにして頑張りたい」と話している。


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