宗像ウニプロジェクト始動 藻場の回復を妨げる海の厄介者を食用に
記事 INDEX
- 磯焼けが深刻な問題に
- ウニ蓄養に適した餌は?
- マイナスをプラスに転換
ワカメやヒジキなどの海藻が消失し、「海の砂漠化」とも呼ばれる磯焼け。その状態を長引かせ、藻場の回復を妨げる要因となっているウニを捕獲し、陸上で食用に育てる共同研究に、プラント建設業の高田工業所(北九州市八幡西区)と九州大大学院農学研究院が乗り出しました。藻場の再生促進と合わせてウニの陸上蓄養の事業化も視野に入れ、うどん店でだしを取り終えた昆布や売り物にならない野菜を食べさせながら、食用部分の成長具合や味の違いを調べます。
磯焼けが深刻な問題に
磯焼けは温暖化に伴う海水温の上昇によって引き起こされるとされ、世界各地で問題になっています。九州大によると、北部九州では、対馬暖流の影響を受ける西側沿岸部などで深刻化。アワビやサザエ、エビ、カニ、小魚などにとって、藻場には餌を食べたり、外敵から身を隠したりする役割があるため、磯焼けは水産資源の枯渇を招き、沿岸漁業に深刻な影響を及ぼします。
磯焼けが起こった場所ではウニが大量発生し、再び生えかけた海藻を食べることで藻場の回復を妨害します。しかも、磯焼けのウニは餌不足のため食用部分の生殖巣が育たず、商品価値がない空ウニです。駆除して陸に揚げると産業廃棄物として処分費用がかかるため、漁師が海中でたたき割るケースが多いといいます。
ウニ蓄養に適した餌は?
藻場の回復と空ウニの有効活用を目指し、4月に共同研究が始まりました。高田工業所は、磯焼けが起こっている場所でのウニの捕獲や水中ドローンで藻場を調査する際の船の運航を宗像漁協に委託。捕まえたウニは九州大の水産実験所(福岡県福津市)に持ち込み、生殖巣が大きくなるまで数か月間育てます。
餌には、「資さん」(北九州市小倉南区)が展開するうどんチェーン「資さんうどん」でだしを取った後の昆布、レストラン「ぶどうの樹」などを運営する「グラノ24K」(岡垣町)の廃棄野菜、合馬観光たけのこ園(北九州市小倉南区)のタケノコの捨てる部位――の3種類を活用します。
現在は水産実験所のタンクで、宗像市鐘崎の海士が捕まえたムラサキウニ300匹を飼育しており、餌による生殖巣の大きさや味の違いを1年かけて調べていきます。
高田工業所は、地域課題の一つである磯焼けの回復に協力しながら、食用ウニ自体を販売したり、陸上蓄養設備やノウハウを国内外で販売したりする事業化も視野に入れていると説明しています。
マイナスをプラスに転換
この「宗像ウニプロジェクト」の連携協定締結式が宗像市役所であり、高田工業所、九州大大学院農学研究院、宗像漁協、宗像市の4者が調印しました。2、3年目には蓄養設備への海水の流し方を試しながら、年間20トン程度の量産や事業化の可能性を探っていく計画です。
1か月半ほど餌を与えたウニを試しに割ったところ、当初は体重の2%ほどしかなかった食用部分が平均で5%を超え、餌の違いによる味の違いも確認できました。商品として流通できるレベルの8~10%、さらに12%も視野に蓄養が進められます。
担当する栗田喜久准教授(水産増養殖学)は「空ウニも餌も、これまではお金をかけて廃棄してきたものだが、掛け合わせることでおいしいウニになり、利益を生み、食品ロスの削減にもつながる。ウニは雑食なので、それぞれの地域にあふれているタダ同然の食材で蓄養できる可能性がある。マイナスをプラスに転換し、人を幸せにできる研究になる」と話しています。