「はんてん」に再注目 和モダンで節電!家計もあったか!

はんてんを手に「1着ずつ手作業で仕上げています」と話す吉開社長

記事 INDEX

  • 長持ち「着るふとん」
  • 熟練の技でいいものを!
  • 見直される日本の防寒着

 光熱費をはじめ生活必需品の値上げが相次ぎ、寒さも家計も厳しい冬――。福岡県筑後市の「宮田織物」を訪ねると、カジュアルな「綿入れはんてん」が並んでいました。節電のために買い求める人が増え、若者の姿も目立つといいます。昔ながらのぬくもりを感じながら、おうち時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

長持ち「着るふとん」

 筑後地方は国内有数の「はんてん」の産地です。宮田織物は木綿織物の老舗で、本社工場に併設した直売コーナーでは、約60種のはんてんを扱い、色違いなども合わせて200着ほどをそろえています。


鮮やかなはんてんが並ぶ直売コーナー

 直売コーナーは2022年10月、事務所部分を改修して開設しました。コロナ禍による巣ごもり需要、政府からの節電要請を受け、購入者が増えているそうで、本社前に掲げた「はんてん買えます」の看板につられてやって来る人もいるそうです。


国道から見える「はんてん買えます」の看板


 はんてんの綿は”天然の空調”といわれるほど保温性が高いのが特徴で、乾燥する季節でも静電気が起きにくいといいます。

 1着1万~3万円台と安くはないですが、天日干しするたびにふっくらし、きちんと手入れをすれば5年、10年と使い続けられるそうです。社長の吉開(よしがい)ひとみさんは「はんてんは長く愛用でき、『着るふとん』と呼ばれるほど」と話します。


人気の「和モダン」シリーズ

 人気は色や柄、形を現代風にアレンジした「和モダン」と呼ばれるシリーズ。袖のないタイプや外出時にも使えるデザインがあります。また、直売コーナーなどで耳にした消費者の要望をデザイナーがすぐに取り入れ、商品化しているといいます。

 「若い人が手に取りやすく、『かわいいね』と思ってくれるよう心がけています」と、生地の柄などを考案する森聡美さん。デザイン担当の能地佐知子さんは「昔は男女ワンサイズぐらいしか種類がありませんでした。今は、生活スタイル、ターゲットの年代層も多様化しました」と話します。


袖なしタイプの「ポンチョ」形(左)と、オーバーサイズ

袖なし「ポンチョ」形

 ポンチョ形は袖がなく、えりの幅を広くしたベストのようなスタイルです。おしりまですっぽり隠れ、あたたかさも抜群とのこと。デスクワークや家事の際に「袖が気になる」といった意見を取り入れたそうです。

流行のオーバーサイズ

 パーカなどの大きいサイズの服を着るビッグシルエットの流行を受けて作りました。ゆったり着られる2L~3Lのオーバーサイズで、外でも着られるアウターとして人気といいます。


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熟練の技でいいものを!

 宮田織物は1913年に伝統工芸・久留米絣(かすり)の織元として創業し、65年にはんてんを作り始めました。「欲しいという人に、いいものを届けたい。多品種、小ロットで生産しています」と吉開さん。デザイン、織り、縫製など、ほとんどを自社で行い、手作業にこだわっているそうです。吉開さんが工場を案内してくれました。


 約40人が働く工場では、年間2万~3万着を生産しています。織りの工程では、職人が織物の柄に合わせて経糸(たていと)を並べて巻き取る作業をしていたり、織機に経糸をかけて生地を作ったりしています。


 外国人技能実習生も現場を支えており、裁断された生地の表裏をミシンで縫い合わせていました。


一枚ずつ丁寧に縫い付ける

 服の形に縫い上がると、最後に綿を入れて完成です。シート状の綿を2人1組になって生地の間に詰めていきます。力が強いと綿が引きちぎれてしまうそうで、均等に手早く綿を入れるには熟練の技が求められるといいます。


綿の繊維を交差させて強度を高めるなどの工夫をしている

見直される日本の防寒着

 はんてんがかつて流行したのは、1970年代のオイルショックがきっかけだったといいます。当時の日本の木造家屋はすきま風が入ってとても寒かったそうで、灯油価格の高騰などから屋内の防寒着として広まりました。

 最盛期には同社だけでも、年間約50万着を生産していたそうです。「当時は油が高くてストーブがつけられなかった。今と少し状況が似ているかもしれませんね」と吉開さんは言います。

 昭和から平成にかけて住宅事情が改善されたほか、安い海外製品の流入などを受け、防寒着の主流はダウンジャケットやフリースに移っていきました。こうして出荷量が減少したはんてんですが、近年は生活雑貨や伝統工芸品などを扱うセレクトショップからの受注が増えているといいます。


「見えないところでも手を抜かないが信念」と話す吉開さん


 宮田織物が設けている通販サイトからの注文も増え、「おばあちゃんの手作りみたいでほっこりする」と、はんてんを求める若者もいるそうです。「ものをどんどん消費する時代ではなくなったのでは」と話す吉開さん。「若い人も日本製の良いものを求めています。お客さんの声を聞きながら、長く愛される商品を作っていきたい」

「宮田織物」本社工場
所在地:福岡県筑後市羽犬塚375
電話:0942-53-5181

博多リバレイン地下2階「宮田織物」(直営店)
所在地:福岡市博多区下川端町3-1 B2F
電話:092-292-4033



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