「アトツギ」のチカラになります!頑張る若手を福岡県が支援

軍手製造の機械が並ぶ自社工場で、開発したキッチンミトンを手にする稲葉さん

 何十年と続く家業を継いだ若手経営者の「アトツギ(後継ぎ)」支援に福岡県が力を入れている。時代の移り変わりでモノが売れにくくなっている中、新たな顧客の獲得に向け、新商品や新サービスの開発を後押ししようという取り組みだ。アトツギたちも長年培ってきた技術を強みに、これまでにない商品を生み出している。

顧客獲得へ商品開発を後押し!

 県のアトツギの伴走支援プログラムは2021年度に始まった。事業開発や広報戦略の専門家、百貨店のバイヤーなどが指導役となり、1対1でアドバイスも受けられ、3年間で27人が参加。24年度からは商品だけでなくサービス開発の部門も設けている。受講は無料だ。

 1960年に創業した久留米市の軍手専門メーカー「イナバ」の3代目で、取締役の稲葉雄大さん(38)は2023年度、このプログラムに参加し、新商品のキッチンミトン(鍋つかみ)を開発した。熊本県の小国杉の間伐材から作られた「木糸(もくいと)」とオーガニックコットンを使い、軍手のように5本指に編み込んだ。二重構造で耐熱性を確保し、木糸を使うことで滑りにくくしたという。


小国杉の木糸を使ったキッチンミトン


 「異素材の組み合わせや指先を自由に使える形は、軍手メーカーだからこそできたと思う。既存事業だけでは知ってもらうのは難しいので、新商品で技術をアピールしたい」と稲葉さん。一般販売に向け準備を進めているという。


 23年度のプログラムには稲葉さんのほかに30~40歳代の8人のアトツギが参加。建具制作の技術を生かした組子のコースター、職人が作った、塗ってたたくだけの染み抜き、老舗のしょうゆ醸造元が手がけるソースとスパイスなど開発した商品をクラウドファンディングサイトの「Makuake(マクアケ)」で販売した。

新分野への挑戦で地域を元気に

 帝国データバンク福岡支店が23年11月に発表した調査によると、「後継者がいない」「未定」などとする県内企業の割合は57.9%。コロナ禍前となる19年の67.2%より低下したものの、後継ぎ不在はなお深刻だ。九州・沖縄では23年1~10月に後継者難による倒産が35件あったという。


アトツギを支援する福岡県のプログラムのロゴ


 県新事業支援課の帆足恵美子課長は「何十年も地域に根付いている企業は、その地域を支えている。資源や人を生かして新しい分野で頑張ろうとしているアトツギを支援し、県の発展につなげたい」と事業の意義を強調。稲葉さんも「インターネットやSNSの普及で自由に発信できるようになり、サラリーマンよりも家業を魅力に感じる若者もいる。アトツギになろうか迷っている人に先輩の姿を見せられれば」と話す。


 7月18日午後4時からはTENJIN MONOLITH(福岡市中央区長浜)で、アトツギプログラムの参加者によるトークセッションや、家業の布団製造からダウンジャケットなどアパレルにも挑むナンガ(滋賀県)の横田智之社長が講演するイベントを開く。参加無料で申し込み(11日まで)が必要。問い合わせは、福岡県ベンチャービジネス支援協議会事務局(092-710-5800)へ。


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