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福岡市西区愛宕浜の渡船場から小型フェリーで10分。博多湾に浮かぶ能古島(のこのしま)は、都会の喧騒を忘れさせてくれる穏やかな場所です。周囲12キロの島では柑橘類の栽培が盛んで、4月から7月中旬にかけて甘夏やブラッドオレンジなどの出荷が最盛期を迎えます。この甘夏を使ったサイダーがあると聞き、島へ渡りました。
サイダーが生まれたカフェ
サイダーを置いているのは、能古島渡船場の目の前にある「noconico cafe(ノコニコカフェ)」。喫茶と、オリジナル雑貨が揃うカラフルなお店です。店を営む柴田洋幸さんと祥子さん夫妻は、もともとカフェの常連客。2004年に前店主からカフェを引き継ぎ、自分たちの好きな商品をそろえながら店を続けています。
カフェを継いで間もない頃、「福岡県西方沖地震」が発生。能古島に深刻な被害はなかったものの、フェリーで訪れる人は激減し、島の生命線である観光業は打撃を受けました。
そんなある日、「ここの常連だった」と語る男性がふらりとカフェに現れます。夜になって、その男性から夫妻に長文のメールが届いたそう。読んでみると、「一緒にサイダーを作らないか」と持ちかける文面で、祥子さんは「なんだか怪しい人が来たぞって思いました」と笑いながら振り返ります。
サイダーで"島おこし"
このメールの主は、デザインやブランディングを手がける「有限会社ウィロー」(福岡市)の浅羽雄一さん。炭酸飲料「こどもびいる」をはじめ、様々なヒット商品の開発に携わった仕掛け人です。
今では仕事の拠点も能古島に移した浅羽さん。「それまで島のお土産といえば、能古うどんと農産物、お菓子くらい。オリジナルのサイダーを作ったら、活気が戻るきっかけになるんじゃないかと思いました」と、夫妻に声をかけた理由を話します。
サイダーに込めた愛情
浅羽さんと夫妻が最初に商品化したのが「ノコリータ」。能古島で育った甘夏の果汁を用いた甘酸っぱいサイダーです。さわやかさとシュワシュワの炭酸が口の中で弾ける、夏にぴったりのドリンクです。
波しぶきを上げて海を進むフェリーが描かれているのは「能古島サイダー」です。薄水色のガラス瓶が涼しげで、日光にかざすと島の海岸線の情景が浮かんでくるようです。
手に馴染む瓶ならではの質感、栓抜きで開ける銀色の王冠。手書きの味わいが残る優しいタッチのイラストは、浅羽さんの妻・八智代さんが手がけたそうです。
「能古島にデートに訪れたカップルが結婚して、引き出物に能古島サイダーを選んでくれたこともあったな」と祥子さん。島のことが大好きな4人がサイダーに詰めた愛情は、多くの人たちの記憶を彩っているようです。
コロナ収束を願って
以前は海外からの来訪も多かったのですが、新型コロナウイルスが広がった今年はほぼ姿が見られないそうです。車を使い、短時間で島を巡る人も増えたといいます。
「能古島は屋外で楽しめる施設が多いし、海岸線を眺めているだけでほっとできる場所。私たちもぼちぼち営業していけたら」。柴田さん夫妻は、渡船場ににぎわいが戻る日を心待ちにしながら、手を取り合って小さなカフェを守り続けます。
店名 | noconico cafe |
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所在地 | 福岡市西区能古457-1 |
営業時間 | 午後から夕方まで |
店休日 | 不定休 |
公式サイト | noconico cafeのHP |