届け!音楽の力 がん経験者や遺族らのバンドがステージに

音楽会に向けて練習に励む梅尾さん(前列中央)や原さん(後列左)らikoのメンバー

 がんの経験者(サバイバー)や遺族らでつくるバンド「iko(いこ)」が5月31日、初めて一般向けの音楽会を福岡市で開く。「聴いた人が日々のつらいことを忘れ、少しでも強く生きていくきっかけになれば」――。メンバーらは、それぞれが背中を押された「音楽の力」を感じてほしいと願いながら本番に臨む。

5月31日、福岡市南区で

 10日、福岡市南区の市立南市民センターの練習室に集まったikoのメンバーが、サックスやピアノなどの音を合わせていた。がんの闘病を経験したり、がんや事故でパートナーを亡くしたりした人たちだ。

 バンドは2024年春、福岡市で「膵(すい)がん患者夫婦の会」を開く梅尾勲子(いさこ)さん(54)の呼びかけで結成された。梅尾さんは23年3月、夫の勝規(かつき)さんを膵臓がんで亡くした。48歳の若さだった。半年ほどたった頃、「夫が好きだった曲を弾けたら」とギターを習い始めた。

 患者会に来ていた末期の膵臓がんの女性を見舞いに行った時の出来事が、バンド結成のきっかけだ。勝規さんのお気に入りだった玉置浩二さんの曲「メロディー」を病室で演奏すると、女性の夫も一緒に歌ってくれた。女性は話すのも難しいほど病状が進んでいたが、心が通じ合った気持ちになり、言葉を超えた「音楽の力」を感じたという。

 患者会などを通じて知り合った人たちに声をかけ、現在は30~50歳代の男女7人で活動する。音楽会は、梅尾さんががん患者や家族、医療従事者らに呼びかけ、南市民センターで開催することが決まった。

「iko=今この時を奏でる」

 音楽会で7年ぶりに、本格的に歌声を披露するのは同市の原利彦さん(52)だ。高校時代から約30年間、アマチュアのロックバンドでボーカルを務め、歌が生きがいだった。

 だが、45歳の頃、中咽頭と甲状腺のがんと診断され、甲状腺の全摘手術や放射線治療などの影響で声域が1オクターブ程度に狭まった。会話はできるものの、歌うのは難しくなった。「二度とできない」と思うと耐えられず、音楽を遠ざけるようになっていた。

 患者会のつながりで交流があった梅尾さんからバンド活動に誘われたことが転機となった。葛藤もあったが、練習会場を訪れてみると、大切な家族を亡くしながらも活動に励むメンバーの姿に刺激を受けた。最初は「楽器だけなら」と参加したが、思い切って歌にも挑戦するようになった。


当日のプログラムを紹介するチラシ


 音楽会では、フィナーレで「見上げてごらん夜の星を」を歌う。歌いやすい発声方法や口の開け方などの練習を続けており、「仲間と一緒に何かに取り組むことの楽しさが聴く人にも伝わってほしい」と話す。


 「iko」には「今この時を奏でる」との思いが込められている。梅尾さんは「患者や家族が『今この時』に目を向け、未来への不安や後悔を少しでも手放せる時間になれば」と願う。

 午後1時開演で、乳がんサバイバーの女性のピアノ演奏や、医療従事者のチームによるステージもある。入場無料。事前に応募フォームから申し込む。問い合わせは膵がん患者夫婦の会(090-2964-1160)へ。


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