【佐賀】肥前山口駅から「江北駅」へ 新たな旅の始まりに期待

「江北駅」に改称される肥前山口駅

 西九州新幹線が開業する9月23日、北海道・稚内駅からの「最長片道切符」の終着駅や、JR長崎線と佐世保線の分岐地点として鉄道ファンらに愛されてきた佐賀県江北町の肥前山口駅が「江北駅」に改称される。町名と駅名を一致させて町の知名度を上げる狙いから、町がJR九州に変更を要望した。鉄道ファンや住民は全国的に知られる駅名との別れを惜しみつつ、新駅名による新たな旅の始まりに期待している。

感謝と惜別

 「肥前山口という駅名が大好きでした。私の中ではいつまでも肥前山口駅のままです」「名前は消えても心には残り続けます。たくさんの旅をありがとう」――。

 駅の南北をつなぐ自由通路の壁に設置された縦1.8メートル、横4.8メートルのメッセージボードには、町民や観光客らがしたためた駅への感謝や、惜別のメッセージカードが数百枚、びっしりと貼られている。

 肥前山口駅はただの地方駅ではない。稚内駅から同じ駅や区間を使わずに、一筆書きで最も長いルートになる「最長片道切符」の終着駅として、人気を集めてきた。かつての寝台列車「ブルートレイン」や、特急「みどり」などが停車して車両を連結、分割する重要な場所としても機能してきた。

 メッセージボードの設置は、JR九州から町に出向中の町地域振興課係長、大隅由里香さんが提案した。「多くのメッセージが寄せられ、住民や旅行者が大切にしてきた駅だと改めて実感した」と語る。


設置されているメッセージボード

所在町名知られず

 肥前山口駅は1895年(明治28年)、当時の地名・山口村にちなみ、山口駅として誕生。1913年(大正2年)に山口県にも山口駅が誕生したため、「肥前」が付け加えられた。

 駅が全国的に知られる一方、山口村は江北村、江北町へと名称が変遷し、知名度不足が悩みだった。山田恭輔町長によると、名古屋市で開かれた佐賀県人会であいさつした際、「江北町なんてあったかな?」との声が上がり、「肥前山口駅があるところ」と説明するしかなかった。

 山田町長は「町が生き残るには定住人口を増やすしかない。それにはまず、町名を知ってもらわないと始まらない」と改称を進めた。

 だが、駅名を守りたいとして反対する住民の署名運動も起きた。それでも、町は新幹線開業のダイヤ改正に合わせて改称すれば、負担する必要経費を大幅に抑えられることを強調。町議会が昨年3月、名称変更に必要な費用を盛り込んだ予算案を可決した。その後、JR九州が昨年4月、改称を決定した。

改称をチャンスに

 鉄道ファンからは、歴史がある駅名の改称を惜しむ声も聞かれる。

 鉄道好きが高じてブルートレインなどの食堂車で働いた九州鉄道記念館(北九州市門司区)副館長の宇都宮照信さんは「数え切れないほどの思い出があり、愛着のある駅名が消えてしまうのはさみしい」と語る。一方で、「新駅名が少しずつ浸透し、町の発展につながることを願っている」と、温かく見守るつもりだ。

 江北町内で日本料理店を営む岸川淳さんは駅の再出発を町のにぎわい創出につなげようと、かつての名物駅弁「かしわめし」の復刻版を、駅北口のコンテナショップ「エキ・キタ」で売り出し始めた。

 鶏ガラスープで炊き込んだご飯にそぼろと錦糸卵をのせたかしわめしは、地元の弁当店が1990年代頃まで販売し、肥前山口駅での乗り換え客らに愛された。岸川さんは町内の飲食店主らと試作を重ね、当時の味を再現しており、「かしわめしが『江北駅名物』になってほしい」と話している。


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