【鹿児島】天文館 ビールで復活へ ちゃんこ店が挑戦

 創業50年を迎えた天文館の老舗ちゃんこ店「朝の海」(鹿児島市樋之口町)の2代目、富岡大作さん(45)がクラフトビールの醸造・販売を始めた。新型コロナウイルス禍で疲弊する繁華街を盛り上げようと、「天文館発」にこだわった。富岡さんは「地元で親しまれるビールに」と願っている。


クラフトビールを始めた富岡さん(中央)と永田醸造長(左)、パブの上原幸樹店長(右)。ガラス越しに醸造所が見える

コロナ禍きっかけ

 きっかけは天文館にも影を落とす新型コロナ禍だった。「人が集う場所だったはずの天文館が、避ける場所になりつつある――」

 何とかしたいと、思い浮かんだのが米国に留学していた際に触れたクラフトビール文化だった。20歳代のときに渡米し、レストラン経営などを学び、約4年を過ごした。地域ごとに「我が町の醸造所」があり、バーに集う人たちが我が町のビールを楽しんでいた。

 県内にもいくつかのクラフトビールはあるが、天文館発は聞かない。街なかのビールをアピールしようと、「朝の海」の店舗1階にあったいけすを撤去し、醸造所に改装した。郊外に開設して運んでくる案もあったが、天文館にこだわった。

老若男女が楽しめる3種類

 技術を学ぶため、国内外のビールコンテストで受賞歴がある城山ホテルのブルワリーで経験を積んだ。昨年11月に商品化にこぎ着け、1階の醸造所に併設したパブ「ブリューパブ ムーンライズ」と2階のちゃんこ店で提供を始めた。

 爽やかな香りの「ペールエール」とホップを生かした「IPA」、県産茶を使ってコク深く仕立てた「抹茶ウィート」の3種類を用意し、価格は660円から。いずれも料理に合わせやすく、老若男女が楽しめる味に仕上げた。


(左から)IPA、抹茶ウィート、ペールエール

 醸造長の永田清悟さん(43)は「コクがあって原料の甘みを感じることができる。派手さはないが、懐かしく、落ち着くビール」と胸を張る。県産の黒糖や果物などを使ったビールにも挑戦していく予定で、「試行錯誤しながら進化させていきたい」と力を込める。

 富岡さんにとって天文館は青春を過ごし、酒の文化を学んだ場所でもある。懐かしさだけでなく、新しいものが生まれる刺激も受けてきた。「愛されてきた『ちゃんこ鍋』を守りつつ、新たな名所として人が集い、ビールに親しむ場所になってほしい」と話している。


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