【鹿児島】タネガシマン、魅力発信に奮闘 誕生四半世紀
ご当地ヒーローの先駆けの一つ、種子島の「離島閃隊(しぇんたい)タネガシマン」は、1999年の誕生から四半世紀を超えた今も島の魅力発信に奮闘している。これまで、島内外で300回を超えるショーを開催。「種子島に興味を持ってもらえるような活動を続けたい」とヒーローたちは力を込める。
俺たちがやろう
「サトウキビフェスの邪魔をするとは、許せん」。2024年11月末、鹿児島県中種子町の製糖会社で開かれたイベント。タネガシマンの「タネガ・レッド・ベニィ」が叫んだ。種子弁(種子島の方言)でなめる、吸い取るを意味する「スワブる」力を持つ悪役の怪人「スワブリン」らから、観覧者を守るという設定だ。
レッドは仲間の「ブルウ」と「イエロウ」に助けを求めるが、島の特産サトウキビ収穫の準備に追われていることを理由に断られ、苦しい展開に。「頑張れ、タネガシマン!」。子どもたちの声援を受けると、レッドは無事に怪人たちを退治した。
演出を手がけるのは、地域おこし団体「種子島アクションクラブ」(TAC、約20人)。島民に喜んでもらおうと1995年に結成した。子ども向けイベントで何が盛り上がるかを話し合った際、島外からIターンしたメンバーが「ヒーローショーをやろう」と声を上げた。
島内でも仮面ライダーやスーパー戦隊などが放送され、子どもたちの人気を集めていた。同年、鹿児島県西之表市のプロモーション会社に依頼して開催したところ、大盛況。その様子を見て、メンバーたちは思い立った。「俺たちでオリジナルヒーローを作ろう」
マスクは島外の愛好家に作り方を教えてもらい、地域のイベントで劇やアクションショーを経験したメンバーがかぶった。そうして離島閃隊タネガシマンは99年8月、同町の夏祭りでデビューした。以降、中心メンバーの入れ替わりはほとんどなく、活動を続ける。
高まる応援の声
島内の3自治体(西之表市、中種子町、南種子町)にちなむ3人の閃士(しぇんし)が、種子島の征服をたくらむ謎の組織「ジャアスロウ帝国」と戦う。組織は全てを暴力で解決しようとすることから、種子弁で「なぐる、いじめる」を意味する「ジャアスロウ」と呼ばれる。「最初は冗談半分で、怪人を応援する声の方が大きかった」。レッド役の稲子(いなご)隆浩さん(52)は振り返る。
2000年3月、全国放送の情報番組で取り上げられると、次第に応援の声が高まった。「マスクを着けた途端、知り合いがヒーローとして応援してくれる。いまだに不思議な感覚」。稲子さんはほほえんだ。
登場キャラクターや脚本にもこだわる。島外からも種子島を訪れてもらおうと、海岸沿いにある「雄龍雌龍(おたつめたつ)の岩」や、島で最も大きな滝「千段峰(せんだんのみね)の滝」など島内の観光地や名所を盛り込むことは欠かさない。ユーチューブにも活動内容を投稿している。
子どもたちに方言に親しんでもらおうと、悪役のセリフには「しゃ」「しゅ」「しょ」といった種子弁の言い回しを使う。親近感からか、大人からは悪役たちへの人気が高く、特に高齢者施設の訪問では喜ばれるという。
力の源「愛島心」
音響を担当する鎌田拓也さん(54)は「幼稚園などで公演すると、園児たちから『ありがとう』と手紙が届く。みんなが喜んでくれるから続けられる」と話した。
活動は25年を超えた。デビュー当初の子どもたちは、子を持つ親としてショーを見守る。3歳の娘と応援する西之表市西之表、会社員男性(29)は「今も昔も故郷を守ってくれるヒーロー。島の産業など知らなかったことを学ぶことができる」と魅力を明かす。
タネガシマンの力の源は、島民たちが故郷を思う「愛島心」だという。「次は3世代に見てもらうことを目指したい」と代表の高磯勝俊さん(57)。島の魅力を伝えようと、ヒーローたちはこれからも闘志を燃やす。