戦争体験を紙芝居で継承 大牟田市の女性による新作が完成

新しい紙芝居を仕上げた松井さん(右)と大野哲也さん夫婦

 約1300人が犠牲になったとされる大牟田空襲や、長崎原爆などの体験者らに話を聞き、紙芝居を制作している福岡県大牟田市東新町の化粧品店経営・松井小百合さん(71)の新作「人間の本質 大野博三(ひろみ)さんの体験記」が完成した。同市の「三池カルタ・歴史資料館」で7月19日午後2時に初披露し、その後は市内外での読み聞かせなどを企画している。

孤児となった男性を作品に

 松井さんが紙芝居に取り組むきっかけは、父親の渡辺松男さん(2019年に94歳で死去)だった。戦争体験をほとんど語らなかったが、認知症が重くなった晩年には度々話すようになった。松男さんは佐賀県にあった旧日本軍の飛行場で特攻隊員3人を見送り、自身が愛知県の航空隊へ入隊する直前に終戦を迎えていたという。

 この体験を紙芝居にし、2008年に最初の作品「特攻隊」を父の誕生日に贈った。以降、空襲や原爆などの体験者らから話を聞き、30作を超える紙芝居を制作、発表してきた。

 今回の作品は、長崎県で暮らす大野博三さん(95)の体験。25年12月以降、大牟田市に住む三男の哲也さん(63)と妻のまゆみさん(61)から手記や写真の提供なども受け、18枚の作品に仕上げた。


大野博三さん=家族提供


 大野さんは戦時中、満州(現・中国東北部)に両親と姉の4人で暮らし、14歳で終戦を迎えた。日本へ引き揚げるまでの約1年間には、元警察官の父親が亡くなり、憲兵だったいとこはシベリアへ抑留された。自宅には強盗が入り、母親は焼けた火箸を頬に押しつけられ、金品も奪われた。


 体調を崩していた母親と姉は引き揚げ船の中で死亡。孤児となり、熊本市の親類宅に身を寄せた。失望のどん底だったが、ある進駐軍の関係者からの匿名の支援で、商業高校では勉強に励み、石油元売り大手への就職もできた。

事実だからこそ伝わる感動

 終戦から5年。大野さんは「あしながおじさん」に宛てた手紙を書き、地元紙で紹介された。

 「あなたは、両親と姉を失い、失意のどん底にあった私に、希望と生きる事の大切さを、教えてくださいました。(略)あなたの、このご恩を思い出し、生涯、頑張りぬく覚悟でおります!」

 紙芝居の最後は「今まで、敵でしかなかった人からの支援は、驚きと共に、感動と感謝の心を、僕に取り戻させた」と締めくくられている。


松井さんの新作が披露される「命の紙芝居」のチラシ=三池カルタ・歴史資料館提供


 松井さんは「話の構成を考える際、絵の構図も次々と頭に浮かんだ。事実だからこそ、感動がじわりと伝わってくる」と話す。


 紙芝居を見た哲也さんとまゆみさんは「素晴らしい紙芝居を作ってもらいうれしい。父の話を多くの人に知ってもらい、子どもたちの平和を願う心を育ててほしい」と期待していた。


advertisement

この記事をシェアする