福岡市博多区の商店街「吉塚市場リトルアジアマーケット」の一角に、大きな釈迦像が登場しました。安置を記念する開眼法要が3月13日に行われ、留学生や観光客らが参拝に訪れています。背景を知るために現地を訪ねました。
光り輝く像と対面
釈迦像に会えるのは、商店街の第3ブロックにある「吉塚御堂」です。2020年10月にミャンマーで作られ、はるばる海を渡ってやって来ました。
高さ2.7メートル、重さ400キロ。金箔(きんぱく)に包まれた全身がゴージャスな輝きを放ち、正面から向かい合うと存在感に圧倒されます。
日本の釈迦像と違うのは手のポーズ。下に向けた右手は「大地のように揺るがない」という悟りへの信念、上を向く左手は「全人類の救済」を表しています。商店街に釈迦像をお迎えしたのは、この場所で創業し、現在は水炊き店「博多 華味鳥」などを展開する「トリゼンフーズ」(福岡市博多区)の会長・河津善博さんです。
シャッター街に活気
河津さんが幼少の頃は、人があふれていたという商店街ですが客足が次第に減り、一帯は"シャッター街"と呼ばれるまでに。「吉塚商店街はもうダメ」という声もささやかれ、河津さんも以前のような活気を取り戻すのは難しいと感じていたそうです。
転機は2020年6月。経済産業省が「商店街活性化・観光消費創出事業」に取り組む事業者を募っていました。吉塚地区は家賃相場が安いうえ都心部に近く、多くの留学生が暮らす街。河津さんら商店街関係者は「彼らが母国語でしゃべり、母国の料理を食べ、そこで生まれる彼らの元気が街の活性化につながるのでは」と考えました。
アジアに特化した商店街「リトルアジアマーケット」の構想が誕生し、具体化へと動き始めました。アイデアは国の採択を受けて、アジアの食を楽しめる店や公共スペースが新設され、個性と魅力が加わった一帯はにぎわいを徐々に取り戻しました。
暮らしの中に祈りを
そんな時、地元の西林寺の住職から「お釈迦様をまつってはどうか」という声が寄せられました。ミャンマーやタイでは、暮らしの中に「信仰」があり、毎日決まった時間に祈る習慣があります。近くの寺院に通う留学生もいましたが、母国で慣れ親しんだ釈迦像に祈りをささげたいのが本心なのでは――。
河津さんはライフワークとして、ミャンマーの支援活動に取り組んできました。すぐさま現地の業者に釈迦像の制作を依頼し、商店街に迎えるための御堂づくりに奔走しました。
「金ピカのお釈迦様を目当てに人が集まれば『せっかくだからアジア料理でも食べよう』となって飲食店も潤うでしょう」と笑う河津さんですが、コロナ禍の拡大や母国の社会情勢など、留学生らが抱える苦悩と不安に心を痛めてきました。
ミャンマーでは現在、民主化を求めるデモ隊と国軍の衝突が激化し、目を背けたくなるようなニュースが届く日も少なくありません。憂いを祈りに変えるため、国内外問わず吉塚御堂に立ち寄る人も増えているようです。