「筋肉は世界を救う」 マッチョビジネスが描く未来とは?
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菜の花畑で追いかけっこをするマッチョ、花よりプロテインなマッチョ――。福岡市内でジム運営などを手がける「スマイルアカデミー」(福岡市南区)が提供する画像などのフリー素材が、「使いどころは分からないけど面白い」とSNSで話題です。なぜ思いついたのか、その裏にあるビジネスの戦略について仕掛け人に聞きました。
趣味が高じてマッチョビジネス
2013年に設立されたスマイルアカデミーは、イベントの企画や人材派遣、福岡市内5か所のパーソナルジム運営などを行っています。
SNSで脚光を浴びたのは、フリー素材を集めたサイト「マッスルプラス」。2018年に始め、これまでに約1000枚の画像をアップしました。社内資料などで使ってもらうことを想定して制作しているそうですが、「ここまで話題になるとは思ってもいませんでした」と、会社設立時からCOOを務める小原明人(AKIHITO)さんは語ります。
リクルートジョブズ(東京)を退社後、CEOの中込智喜さんと起業しました。創業当時は、商店街の活性化事業や人材派遣などを行う小さな会社でした。AKIHITOさんの趣味が高じて2014年に出場したボディメイクの大会が転機になりました。
「せっかく作った体なのに、生かす場所が少ない」
筋肉のつき具合やバランスを審査するこの大会に出て、観衆を前にそう感じたといいます。以降、筋肉を前面に押し出したビジネスを展開するようになりました。
筋力アップで日本のGDPは⤴
最初に取り組んだのは、マッチョを集めることでした。筋肉紳士集団『ALLOUT』を結成し、所属する筋肉質の男たちをイベントに派遣したり、コンテストやアクロバティックなショーを行う「マッスルカフェ」を主催したりしてきました。
グループは女性の人気を獲得し、活躍の場は徐々に全国へ。マッスルカフェは札幌や東京、名古屋など各地で開催するようになりました。百貨店の新年イベントやテレビ・映画などへの出演依頼も増えてきました。
「珍しさもあったかもしれませんが、やはり人間は根源的に筋肉が好きなのでは。祖先が狩猟で生き残ってきたということも大きく関係していると思います」。AKIHITOさんは自身の考えを熱く語ります。
「仕事で疲れたら筋トレをする」というほど筋力づくりが好きなAKIHITOさんですが、幼い頃は小児ぜんそくを患い、決して丈夫ではなかったといいます。考え方もネガティブで内向的でしたが、小学生のときに陸上競技を始め、トレーニングを重ねるうちに身体が強くなり、社交的な性格に変わっていったそうです。
「身体が強くなると、考え方も前向きになります。健康寿命も延びて、いいこと尽くめです。日本の人口は減っているので、1人あたりの生産性を上げるしか発展の道はありません。身体を鍛え、高齢者になっても仕事のパフォーマンスを維持できれば、日本のGDPは上がるはずです」
途方もないことを言っているように聞こえますが、タンクトップからのぞく上腕二頭筋と広い肩幅が、説得力を増しています。
筋肉紳士集団が広げる可能性
新型コロナウイルスの拡大で多くのフィットネスクラブが苦戦する中で、スマイルアカデミーは新たに3店舗をオープンさせました。「コロナは不安だけどパーソナルジムなら比較的安心」という声が多く、「フィットネスの需要はなくならない」という思いを強くしているそうです。
マッスルカフェなどのイベントは中止を余儀なくされていますが、コロナ収束後は再開させるつもりです。「リアルなイベントは熱量や勢いがあり、とても強い。コロナ後はもっと進めたい」と話します。
話題のマッスルプラスは、いわば"ノリ"で始めたものですが、思わぬところから大きな反響がありました。それはイラストレーターや漫画家たちでした。被写体の筋肉の付き方、バランス、様々なポーズが創作の参考になるようで、SNSのフォロワーも多いクリエイターたちによる拡散で、注目度が一気に上がったとのことです。
テーマの大半はAKIHITOさんが考え、毎回100近くのアイデアを用意して撮影に臨んでいます。マッスルプラスは地方の観光振興にも役立つと考えているそうです。「観光地とタイアップすれば誘客につながり、自治体とタッグを組むことも想定しています。『筋肉は世界を救う』のスローガンのもと事業を続けていければと思います」