スターフライヤー元社長が北九州空港で靴磨き 退任してもスタフラ流おもてなし

記事 INDEX

  • 退社翌日から即始動
  • 社員に唱えた「考動」の精神
  • 「航空需要は必ず回復する」

 航空会社「スターフライヤー」(福岡県北九州市)を6月末で退社した松石禎己・前社長が、北九州空港で無償の靴磨きをしている。「お世話になった北九州市に個人的に恩返しがしたい」。どうして空港で靴磨きをする心境に至ったのか。そこには松石さんがスターフライヤーで体験した顧客本位の経営哲学があった。


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退社翌日から即始動


 1953年(昭和28年)生まれの68歳。全日本空輸などを経て、2014年にスターフライヤーの社長に就任。昨年6月、後任の白水政治社長にバトンを譲り顧問に就いた。それから1年、靴磨きを始める前日にスターフライヤーを退社した。

 「スターフライヤーに入って7年間、北九州ではいい思い出をたくさんいただきました。北九州の方々への恩返しに少しでもなればと思い、ここにいます。靴の汚れを落として、気持ちよく目的地に向かってもらいたいです」

 スターフライヤーは靴磨きのサービスを過去にも行ったことがあり、当時社長だった松石さんも社員に交じって搭乗客の靴を磨いた。


搭乗客の靴を磨くスターフライヤー社長時代の松石さん(2015年4月20日撮影)

 靴磨きだけでなく、元旦の「初日の出フライト」や搭乗客への抹茶の振る舞いなど、スターフライヤーでは社員自らが搭乗客をもてなす精神が根付いている。

 産学官でつくる「サービス産業生産性協議会」が選ぶ顧客満足度調査では、スターフライヤーは2019年度まで11年連続で国内長距離交通部門の第1位を獲得した。


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社員に唱えた「考動」の精神

 松石さんはスターフライヤーに入社する前、航空業界からは一度引退していた。引退から半年もしないうちにスターフライヤーの社長就任の声がかかったという。その頃のスタフラは30億円という巨額の赤字を計上。2006年の就航から事業を拡大してきたが、コスト高などにより収益が急速に悪化していた。

 「新しい航空会社はどこも就航まではうまくいきます。大事なのは就航してから。継続して運航できるように組織を強化し、スタッフを育てていく方が何倍も難しいのです」。そこから社員総出の"スタフラ流"が生まれていった。

 今では恒例となった社員手作りの初日の出フライトも、最初はたった2人の社員しか集まらなかったという。「スタッフの言い訳はだいたい二つ。『お金がありません』と『人手が足りません』。社員には考えながら動く『考動』を促しました。そういった要求に応えてくれたから、今のスターフライヤーがあるんだと思います」


初日の出フライトの出発式典に出席した松石さん(2020年1月1日撮影)

 松石さんは全日空に入社してから、航空機の整備を担当する技術者としての経歴が長かった。自分の考え方もスタフラに来てから変化したという。「私は保守的で内向きな技術者でした。お客様とのコミュニケーションの重要さに改めて気づかされたのは、スターフライヤーの社長に就任してからですよ」


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「航空需要は必ず回復する」


北九州空港に駐機するスターフライヤーの機体

 スターフライヤーの今年3月期決算は最終利益が100億円の損失となり、2011年の上場以来、最大の赤字幅となった。売上高も前期より54.7%減少し、上場後で最も少ない182億円にとどまった。コロナ禍による国際線の全便運休や国内線の減便で運航回数は4割減り、有料の旅客数は7割減の45万人に落ち込んだ。

 先行き不透明な航空業界だが、松石さんは後輩たちへエールを送る。「新型コロナの影響で航空業界は瀕死(ひんし)の状態ではあるが、あともう少しの辛抱。打ち合わせがオンラインに置き換わって『オンライン飲み』も流行りましたが、実際に会うことの価値を改めて実感させられたのも今回のコロナ禍です。旅行もそうですが、航空需要は回復すると確信しています」


シャツ、エプロン、帽子は社員からのプレゼント

 シャツやエプロン、帽子は社員がプレゼントしてくれたという。「人と人との触れ合いの大切さはスターフライヤーで教えられた気がしています。お客様ともそうですが、社員とのコミュニケーションもです。スターフライヤーでの仕事は私一人ではできませんでした。"スタフラ流"のおもてなし精神をこれからも大切に育んでほしい。私はあまり目立たないように、しばらくここで靴磨きをしています」。そう言って笑った。

 靴磨きのサービスは8月末までの予定で、月~金曜の午前中に行う。臨時休業あり。



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