アイデア商品で木材の需要を創出 森林と林業の再生に挑む福岡の学生ベンチャー
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「日本の森林が直面する問題をビジネスで解決したい」。そんな志をもつ学生が起こしたベンチャー企業が福岡市にあります。その名も「konoki」。大分県別府市の立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長が主催する「起業部」から誕生した会社で、アイデア商品により木材の新たな需要を生み出そうと挑んでいます。
APU「起業部」から誕生
「konoki」は、2020年に産声を上げました。発起人の内山浩輝さんは2021年秋にAPUを卒業予定の大学生です。友人の陣脇康平さんも巻き込んで、ともに共同代表を務めています。
実業家としても知られる出口さんは2018年にAPU学長に就任すると、学生の中から起業家を育てようと、起業部の創設を自ら提案。内山さんはその1期生に選ばれました。「起業はしたかったけど、明確に何がしたいのかは正直分かりませんでした」と内山さんは振り返ります。
転機は2020年3月、出口学長の紹介で三重県津市の林業家・三浦妃己郎さんと出会ったことでした。日本の林業の現状や課題を聞くうち、「ビジネスで解決できるかもしれない」と考え、起業を決意します。人材不足などに悩んでいた三浦さんも、意欲ある若者を歓迎してくれたそうです。
アイデア商品で新提案
新商品で木材の需要を喚起する。第1弾の商品は、木材とスパイスを調合したブレンドティー。2020年7月からクラウドファンディングで購入者を募ると、目標額の150万円を上回る172万円分が集まりました。2021年1月の第2弾は、輪切りしたヒノキを浴槽に浮かべて香りを楽しむ「おうちでヒノキ風呂」で、こちらも販売目標額の25万円を超える85万円を達成しました。
続いて8月初めから、第3弾の商品をクラウドファンディングサイト「Makuake」で販売しています。自宅でお酒を熟成できる約4リットルの「国産ミニ樽」と、酒瓶に漬けておくだけで樽で熟成させたような香りがつく木製スティック「樽フレグランス」の2種類です。
材料はもちろん国産材。ともに桜、ミズナラ、栗、杉の4種類から選べ、樽は職人が焼き入れなどを行って作られた本格仕様です。ウイスキーだけでなく、焼酎や日本酒の熟成にもおすすめといい、1週間ほどで香りや色に変化が表れるそうです。
第3弾の販売額は8月19日時点で150万円を超え、目標の30万円を大きく上回っています。内山さんは「皆さんのこだわりを凝縮させた、世界にひとつだけのお酒を作れます。日本の木の価値で、お酒の時間を豊かなものにしたい」と話しています。
需要を生んで問題解決
森林の問題にビジネスで取り組みたいと一念発起した内山さんですが、これから具体的にどのような方法で、どのような課題を解決しようと考えているのでしょうか。
日本の森林は林業の人材不足のほかにも様々な問題を抱えているといいます。その一つが「需要」です。内山さんによると、戦後、家庭用の燃料などとして木の需要が拡大し、全国で人工林が急増しました。しかし、エネルギー革命で燃料の中心は石油に代わり、海外からは安価な木材が入ってくるようになりました。
その結果、人工林の多くが放置されることに。人工林は自然林と異なり、手入れをしなければ荒廃し、土砂災害が起こりやすくなったり、生態系が乱れたりします。林業の担い手不足が、その問題に拍車をかけています。
どうしたら問題解決に向かうのか。「まずは国産木材を身近な存在にして、需要を生み出すこと」と内山さんは語ります。「林業が潤えば雇用が生まれ、放置林の状況も改善されていきます。私たちの生活も木の恩恵を受けて豊かになります」
国産木材の使い道をつくり、広げていくことで、森林問題の解決をめざす。そんな大きな挑戦を、これからも続けていくといいます。「林業とは縁がなかった私ですが、知れば知るほどその奥深さに引き込まれます。林業ブームを起こし、日本の木を新しいかたちで日常に浸透させていきたいです」と、意気込みを語ってくれました。