独立系書店ブックスキューブリック店主 大井実さんインタビュー【仕事編】

福岡は過剰に評価されている

――大井さんは書店発の「まちづくり」にも取り組んでいます。福岡の街もこの20年で変わったのでは。

 福岡は家賃や物価が安く、若い人には居心地のいい街です。街全体が若い一方、成熟した雰囲気がないところもあります。市長も若くて、ちゃらちゃらした雰囲気もあるんですよ。それがあんまり好きにはなれない。でもまぁ、地元の人が威張っている田舎に比べればましかなと思わんでもないですけど。でもね、もうちょっと文化的に成熟した街になってほしい。若くてイケイケで「ITです!」みたいな人がでかい顔をしているのがね、「けっ」ていう感じです。地に足のついた人たちが、もう少しね。


――福岡の魅力が聞きにくい……

 福岡の魅力はさんざん語られすぎて、過剰に評価されています。もう語らなくてもいいじゃないの。福岡に足りないところを探した方がいい。おらが街自慢の度が過ぎているし、「いいことばっかりじゃないですから」と言いたくもなります。150万人もいて、現代美術館すらない。小劇場も少ない。文化的には貧弱です。そういった点を無視して「食べ物がおいしい」「人々が気さくだ」とか。外の人から褒められて図に乗っているようでは未来は危うい。行政も文化的な取り組みにもっと予算を振り分けるべきでしょう。

 元気がないと言われるよりはいいんだろうけど、調子に乗っている部分、足りない部分も冷静に見ようよ、と。


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――福岡にはまだ伸びしろがあるとも言える。

 言えますよ。屋台もあり、外から来た人には開放感あふれた街に見えるのは当然です。ただ、地元民が心からいいと思える街でもあってほしい。私は昭和の生まれだから、古い人間なんですね、きっと。

自分の仕事は自分でデザインする


――ブックスキューブリックではイベントも多く開いています。

 2006年にBOOKUOKAを始めて、そのときのトークショーか激しく面白かった。箱崎店には2階にカフェスペースをつくり、夜はイベントができるようにしました。全国的にカフェつきの書店は先駆的だと言われ、やり続けて良かったです。「ハレとケ」でたとえると、普段の「ケ」の仕事に、イベントという「ハレ」の仕事がたまにあると精神的にポジティブさを保てるんです。イベントは体験として記憶に残るし、いいですよ。

 仕事ってね、朝から晩までデスクワークでもつらいし、逆にずっと立ち仕事でもつらい。バランスが取れていると長く続けられると思っています。仕事って、あっという間に退屈になるから。世の中のほとんどの人は「仕事=退屈」だと思って、毎日を耐えている。人生で一番長い時間を退屈に耐えるというのはつまんない。面白く働けるいいバランスを日本人も考えないと。

 そういう意味で、日本人はみんな、自分の仕事を自分でデザインするという気概が足りないんじゃないかな。

――自分の仕事は自分でつくる。

 そうそう。その通り。

大井さんのインタビュー前編【地方編】はこちら


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