独立系書店ブックスキューブリック店主 大井実さんインタビュー【地方編】

記事 INDEX

  • 高校時代はアンチ伝統のロック少年
  • ファッション業界でバブルの洗礼
  • イタリアの「ローカル」に感化され

 福岡市中央区のけやき通りに「ブックスキューブリック」を開店したのは2001年。店名は映画『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリック監督から。今では九州の独立系書店の草分けとして、全国から注目を集めるようになりました。ブックスキューブリック代表・大井実さんへのロングインタビューです。


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大井実さん

1961年生まれ。福岡市出身。ブックスキューブリック代表。2001年に福岡市中央区赤坂のけやき通りに13坪のブックスキューブリックを創業。2008年には2号店となる箱崎店を開店。「福岡を本の街に」を合言葉にしたイベント「BOOKUOKA」を企画するなどまちづくりにも取り組む。

きっかけはイタリアの「ローカル」


イタリア時代の思い出を語る大井さん

――どうして書店を開業しようと思ったのですか。

 東京と大阪でイベント企画の仕事をしていて、その後、イタリアに住んだ時期がありました。個人商店しかない町。住民たちが地産地消かつ互助的に買い物して成り立っているローカルコミュニティーに共感しました。イタリアには都市国家的な伝統があり、それぞれの街が小国家みたいに互助的、民主的に成り立っています。それがいいな、と。イタリアに移住したのは1990年頃。日本では大企業の影響力が強く、スーパーマーケットがすでに全国展開し、コンビニも増え始めていました。「ローカル」という言葉自体、まだ一般的ではありませんでした。そんな頃、イタリアでローカルの原点を見て、美を感じました。自分も個人商店をやってみたくなり、文化的な個人商店ということで本屋をやろうと思いました。

大井さんのインタビュー後編【仕事編】はこちら

――イタリアではどこに住んでいたのですか。

 フィレンツェやローマに合わせて1年半くらいです。日本とイタリアはまったく違いました。日本は東京への一極集中が進み、地方が疲弊しています。イタリアは地方の独立心が旺盛で、互助的な地域コミュニティーは心地よかったです。チェーン店だらけになった日本の地方都市のあり方に違和感を持っていたので、より印象に残っています。


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ブルータスがイタリア特集とかしてさ

――どうしてイタリアだったのですか。

 若い頃からヨーロッパへのあこがれはありました。学生の頃はロックの影響でイギリスが好きでしたし。社会人になると音楽の趣味が変わった。クラシックやオペラを聴くようになり、ずっとオペラの本場に行ってみたいとね。社会人になってからは東京や大阪で働いて、海外ブランドのファッションショーをしたり、展示会をしたりしていました。そこで出会うイタリア人は元気で、楽しそう。1980年代の終わり頃だったから、イタリア料理店がちょうど東京に出始めた頃で、ティラミスブームなんかもあったよね。友人に誘われてイタリア料理で有名な落合務シェフがいたレストラン「グラナータ」にも行ったな。ご飯はおいしいし、建築も好きだった。ファッションも先端で、「ブルータス」がイタリア特集とかやり始めた頃。個人的な興味、関心が重なって「住んだら楽しそうだな」というのが理由です。


地に足がついた生活がしたいな

――バブル時代のイベント業界って派手そうですね。

 そりゃもう、すごい派手でしたよ。ははは。明治神宮外苑にドラマのロケでよく使われるイチョウ並木があります。東京五輪のマラソン代表を決める「MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)」のスタート地点でしたよね。あそこに噴水があります。噴水のとなりにルーブル美術館をまねた巨大な透明のピラミッドをつくり、さらにファッションショー用のテントをたてて1週間にわたってショーをしたことがありました。世界5か国から有名デザイナーを呼んで、日替わりでショーをしました。バブリーなことをやってましたよね。


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――絵に描いたようなバブルですね。

 現代アートもブームになり始めていました。世界中の新進アーティストを東京に呼んで、現代アート展をしました。お金が回り、毎日パーティーをしているような日々で、それはそれで面白かったんですけどね。

――ですけどね。

 地に足がついた生活をしたいな、そう思うようになったんです。


大井さんもコーヒーが好きだ。箱崎店のカフェ店頭には大井さんも立つ

――で、当時の日本とは真逆のイタリア・ローカルコミュニティーへ。

 うん。日本だと田舎って「かっこ悪い」イメージがありますよね。東京は派手で華やか、楽しいものがいっぱいある。でも、地方には何もない、みたいな。イタリアにはそれがなくて、どの都市に行っても建築は古く立派で、街の中心に教会がある。広場にはカフェテラスがあって、エスプレッソが飲める。街がしゃれた劇場のようで、日本でいう「田舎くささ」がないのが良かった。

 私は生まれが福岡で、大学時代は京都で過ごしました。バブルのものすごい勢いを遠巻きに見ていたこともあって、バブルの狂騒に違和感がありました。だからイタリアへ行ったんでしょうね。フィレンツェと京都は似ています。まず、盆地にある。歴史がめちゃめちゃある。そして、住人のプライドが高い。そんなことを感じながら過ごしてました。


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