カフェ&ギャラリー・キューブリックで 「いわいあや写真展」

記事 INDEX

  • ブックスキューブリックのファン
  • 見に来た人が持って帰れるものを
  • 「わたしになる」って何だろう?

 福岡と東京の2都市を拠点に活動する写真家・いわいあやさん。写真集『食べたものはわたしになる』より、写真展「夢のあと」をカフェ&ギャラリー・キューブリック(福岡市東区)で2月28日(火)〜3月12日(日)に開催する。いわいさんが日々写しとった、二度と立ち現れない瞬間、繊細な光の世界を味わいたい。


いわいあや さん

写真家。1982年生まれ。福岡県出身、東京都在住。会社員を経てパオラスタジオ勤務後、カメラマン・小林康仁氏に師事。2012年、第61回朝日広告賞小型広告賞受賞。2014年からフリーランス。雑誌や広告のほか、『雲のうえ』(北九州市)、『これが柳川のおいしい海苔(のり)』(柳川市)といった自治体の刊行物、『美の鼓動・九州』(テレビ西日本・九州産業大学)など映像制作を中心に活動中。

ブックスキューブリックのファン

 東京と福岡を行き来しながら写真家として活動し、いつも大きなリュックを背負ってふらりと現れるいわいさん。彼女のSNSを覗(のぞ)くと、どこかしらの街の定食屋のお昼ごはんや、喫茶店のケーキなどおいしそうな写真が並んでいる。連絡を取るときは、思わず「今日はどこにいますか?」と聞いてしまう。「風来坊」という言葉がしっくりくる人だ。

 2月上旬、いわいさんから「箱崎のキューブリックで写真展をやるんです」という知らせが届いた。ブックスキューブリック(福岡市中央区)といえば、全国的にその名が知られる「独立系」書店の草分け的存在である。いわいさんは福岡県出身だが、長らく東京で暮らし、撮影の仕事で福岡に来るようになった2014年頃から、ブックスキューブリックに通っている。


ブックスキューブリックけやき通り店(提供:ブックスキューブリック)

 「オリジナルボールペン(ポイントカードが貯まるともらえるノベルティ)、4〜5本は持ってます。ペン軸が黒いバージョンもあるの知ってます?」という言葉から、熱いキューブリック・ファンぶりがうかがえる。店主の大井実さんとは、店だけでなく道や公園でばったり会うことが多く、よく話すようになったそうだ。「うちで写真展をやらない?」と声をかけられ、とてもうれしかったという。

 いわいさんの荷物にはいつも本が入っているようで、お気に入りの和菓子店や弁当店の包み紙をブックカバーにしているのを見かける。昨年、たまたま乗り込んだ特急列車で、文庫本にガリガリと書き込みながら本を読む人がいると思いきや、いわいさんだった。『西田幾多郎講演集』を読んでいたが、哲学や禅に興味があるなんて、これまで一緒に仕事をしたときには話したことがなかった。


いわいさんが読んでいた本には書き込みがびっしり


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見に来た人が持って帰れるものを

 2021年、いわいさんはワインバー「ile」(福岡市中央区)で写真展『食べたものはわたしになる』を開いた。その時、写真展を見に来てくれた人が持って帰れるものを、と考えて写真集をつくったという。


写真集『食べたものはわたしになる』

 写真集は不思議なつくりをしている。ジャバラ式のようでちょっと違う。本のように1ページずつめくることもできるが、ページを横や縦に広げながら写真の自由な連続性を味わえる。デザイナーの伊藤裕(ゆたか)さんによる創意工夫にあふれた造本で、「写真集を広げると小腸みたいな形の1枚の紙になる」という発想も楽しい。


1枚の紙に切り目と折り目が入っており、折り畳むと1冊の本に

 いわいさんから、思いがけないエピソードを聞いた。この写真集を買ったある人はバラバラに切って、好きな写真4枚を額装して自宅に飾っているとか。いわいさんはこの出来事をとても喜んでいた。自分の手元から離れた写真集を、人はそれぞれどんな見方や感じ方をするのか、知るのが面白いと言う。


4枚の写真を額装したのは、写真展期間中にライブ出演するとんちピクルス 松浦浩司さんのお母さん

「わたしになる」って何だろう?

 2年前に「ile」で見た写真展で、個人的に強く印象に残ったのは大分県九重町(ここのえまち)の緑豊かな山の風景だ。写真集のタイトルから食べものの写真が多いのかと想像したけれど、食べものだけじゃないんだと思った記憶がある。


撮影:いわいあや

 2022年12月、いわいさんは仙台市の書店「曲線」で『食べたものはわたしになる』の2回目の写真展を開いている。その様子をSNSで見て、いわいさんの書いたあいさつ文が目に留まった。

 「見たもの、きいたもの、ふれたもの、かいだもの、あらゆるものがわたしをつくるものだと感じています」

 ぼんやりとイメージしていた「わたしになる」という感覚が少し腑(ふ)に落ちた気がして、九重町の山の風景が思い出された。

 写真集の冒頭にはいわいさんの言葉が綴(つづ)られている。ブックスキューブリックで手に取った生物学者・福岡伸一さんの著書『動的平衡』に影響を受けて書いたものだ。


 今回の写真展のテーマ「夢のあと」は、いわいさんがよく聴いているミュージシャン・太陽バンドの曲のタイトルから拝借したそう。その畑俊行さんによる「そろそろ時間がきたよ いかなくちゃいけないよ そろそろ時間がきたよ お別れの言葉 バイバイ」という歌詞が好きで、曲を聴きながら写真集の写真をセレクトしたり、会場で流す動画を編集したり、いわいさんにとって写真集のテーマ曲のような存在だという。


太陽バンド畑俊行さん(左)と、とんちピクルス松浦浩司さん (撮影:いわいあや)


 本を読むことも音楽を聴くこともまた、「わたしになる」のかもしれないと思いながら、もうすぐ始まる写真展へ足を運んでみたい。

 会期中3月7日(火)には、トークとライブを開催。いわいさん、ブックスキューブリックの大井さんと箱崎店のスタッフが「夢のあと」をテーマに棚から本をセレクトして紹介するコーナーも予定されている。ともにソロユニットの太陽バンド、とんちピクルスによるライブ演奏とあわせ、どんな場になるか楽しみである。


箱崎店の2階が写真展会場 (提供:ブックスキューブリック)

いわいあや写真展「夢のあと」
開催日 :2月28日(火)〜3月12日(日) 月曜定休
     ※3月7日(火)19時よりトーク&ライブ
開催場所:カフェ&ギャラリー・キューブリック
     (福岡市東区箱崎1-5-14 2F)
▶詳しくはキューブリックのイベント紹介ページ


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