お年寄りと社会をつなぐカフェ「茶処おとなりさん」

カフェを訪れた女性客らと談笑するお年寄り
福岡市城南区のデイサービス施設「お散歩&日常デイ おとなりさん。南片江」で、認知症の利用者たちがコーヒーなどを振る舞う月1回のカフェ「茶処(ちゃどころ)おとなりさん」が、近隣住民のほか認知症に関心を持つ人たちに好評だ。
「できた!」の喜びが自信に
高齢になるとできないことが増えていくが、認知症になっても、周囲の理解と支援が広がれば能力を発揮できる――。社会と関わることが生きる意欲につながる――。そうした思いから、お年寄りたちによるカフェが始まった。
きっかけは、2019年に福岡市内で行われた介護関連のイベントだった。認知症患者が店のスタッフを務める「注文をまちがえるめんたい屋さん」が開かれ、施設から参加した女性が「明日からウチでもやろう」と、生き生きした表情を見せたという。
「できる力があるのに、認知症ということで可能性をつぶしているのではないか。できる範囲でやってみよう」。施設管理者の金子慎一郎さん(37)は行動に移した。
カフェを始める前には「私なんかにできるかしら・・・」と不安に思っていた利用者も、挑戦してみると、「できた!」「喜んでもらえた!」と声を弾ませたという。
「認知症という自己肯定感が失われる過程の中で、社会とつながっている、私にもできることがある、と感じてもらうことは認知症の進行を抑える一つの方法なのでは」と金子さんは話す。
「一緒につくる社会」を知る
「さあ始めましょうか」。初秋の午後、民家を改築した施設の机に、テーブルマットを広げるお年寄りの姿があった。朝から小麦をこねて作ったハート形のクッキーがちょうど焼き上がる。
「フェイスブックで知り、いつか来てみたいと思っていました。認知症のことをもっと知りたくて」と城南区から訪れた会社員の赤井貴江さん(50)。「転ばんように運ばんといかんね」。小鶴伸子さん(84)がコーヒーとクッキーのセット(税込み300円)を手にそろりそろりと歩く。「頑張って」と温かい声援が背後から飛んだ。
初めての接客体験に、はじめは口数も少なかった小鶴さんだったが、カフェを訪れた女性客らと白髪染めや裁縫の話に花が咲き、いつの間にか輪の中心に。気が付くと閉店時刻を過ぎていた。
金子さんは「誰でも気軽に立ち寄ってください。認知症の人たちと接することで理解が進みます。一緒に社会をつくる大切さを知ってほしい」と訴える。施設では、毎日を生き生きと過ごすお年寄りの様子をブログなどで積極的に発信している。
福岡市も、認知症カフェなどによって、患者の生きがいをつくり、周囲の正しい理解、偏見の解消につなげる取り組みを進めている。市の認知症支援課によると、認知症の人は全国で現在630万人を数え、小学校の児童数とほぼ同じなのだという。
「3年後には、高齢者の5人に1人が認知症を発症するという推計もあります」と担当者。「決して人ごとではなく、家族も当事者になりうることとして捉えてほしい」と呼びかける。