関門に広がるオレンジ色の大パノラマ 歴史の海峡に沈む夕日
夕暮れの関門海峡。北九州市門司区の対岸、山口県下関市の遊園地「はい!からっと横丁」にある観覧車の向こうに太陽が沈み、ゴンドラのガラスが黄金色に染まる。
海岸線に1キロの遊歩道
門司区和布刈(めかり)エリアに整備された「めかり観潮遊歩道」の中ほどにある「観潮テラス」が、海峡の先に沈む太陽が「映える」スポットとして注目されている。空気が澄み渡る冬、多くの人がスマホやカメラのレンズを夕空に向けていた。
門司区と下関市を歩いて往来できる関門トンネル人道のある一帯は、瀬戸内海国立公園の西端にあたる。
北九州市によると、昭和の終わり頃にはノーフォーク広場から和布刈公園潮風広場まで、海岸沿いをつなぐ遊歩道の計画があったという。
しかし途中に民間の施設などもあり、遊歩道は和布刈神社付近で途切れていた。岩礁の上に雑木が茂り、人が立ち入れない場所もあった。そのため海岸線からいったん離れて一般の道路を通り、また遊歩道に戻ってくるという状態が続いていたそうだ。
それでも「できるところから」と、少しずつ工事を進めてきた。2年前、和布刈神社の参道を通る形で海岸沿いの歩道がつながり、約1キロの遊歩道が完成をみた。
新旧のシルエットが交差
観潮遊歩道の完成後は、潮流をすぐそばに感じながら散策を楽しむ人や、さらに関門自動車道・めかりパーキングエリアへと足を延ばす人も増えたという。
ダイナミックな潮の流れを楽しみながら散策する観光客と、地元の釣り人との間では、潮の流れを知らせる海岸線の電光掲示板を指さして「今の速さは3ノット。『W』は西向きだよ」など、気兼ねない会話も交わされているという。
長崎県佐世保市から夫婦で訪れた森吉秀樹さん(53)は、海底トンネルを歩いて門司側に出て、「目の前の関門橋と海峡のパノラマに圧倒された」と笑顔を見せた。観潮テラスの階段状のベンチに腰を下ろし、「オレンジ色に染まった空が本州と九州を照らしているよう。最高ですね」と、沈んでいく太陽と海峡を静かに眺めていた。
やがて日が落ちて人影が少なくなったテラス。耳を澄ますと岩場に打ち寄せる波の音に重なるように、遠く橋の上から車のエンジン音が聞こえてきた。
技術の粋を集めて建設され、「東洋一のつり橋」と呼ばれた関門橋。天をまたぐように、存在感をずしりと放つこの橋は来年、開通から半世紀を迎える。
海峡を見守りながら悠久の歴史を刻んできた和布刈神社の鳥居と、本州へと延びる関門橋がファインダー内で交差した。
歴史の十字路でもある関門海峡で、オレンジ色のキャンバスに新旧の建造物が力強いシルエットで浮かび上がった。