この冬もあったか靴下 北九州「太陽の橋」のマカロニ星人
記事 INDEX
- いったい誰が?
- 驚きのトリック
- ほっこり遊び心
北九州市の中心部を流れる紫川の河口付近。市役所そばに架かる「中の橋」の歩道に、市民から「マカロニ星人」などの愛称で呼ばれる7体のオブジェがある。海から吹きつける風の冷たさを案じてだろうか、この冬も誰かがオブジェに靴下をはかせ、橋を行き交う人たちをほっこりさせている。
いったい誰が?
「誰が、なぜ靴下を?」。市の都市再生企画課に問い合わせると、予想したとおりだが「誰がやっているのかは不明です」との答えが返ってきた。7、8年前からSNSや口コミで話題にのぼり始め、今では北九州の冬の風物詩のようになっているそうだ。
かつては首の部分にマフラーが掛けられていたこともあり、今シーズンも、年末に気がつくと、靴下をしっかり着用していたという。
市の担当者は「今年も誰かが靴下をはかせてくれたなぁ、もうこんな時期か」と、ちょっと温かい気持ちになるそうだ。
例年、2月を迎える頃に、すべてのオブジェから靴下が外されているとのこと。1月12日の夕刻に確かめた時点では、7体のうち2体がすでに脱いでいた。
撮影のため3時間ほど橋にとどまっていると、スマホのカメラを向ける人や、二度見して足元にじっと視線を送る人の姿が見られた。島根県の大学に通う女性(23)は北九州の実家に帰省中といい、「とてもかわいらしいですね。このすてきな風物詩をもっと多くの人に知ってほしい」と話していた。
驚きのトリック
オブジェは「宇宙七曜星の精」という名の作品。高さ1メートル45センチのアルミ製の像で、台座を含めると1メートル90センチにもなる。トリックアートの第一人者でもあるグラフィックデザイナーの故・福田繁雄さんが手がけた。
ほっそりした人間の首から上が、マカロニみたいな筒状の不思議なオブジェ。市民の間では、ちょっと″難解″な正式名称よりも「マカロニ星人」や「ペンネちゃん」といった愛称で親しまれている。
マカロニ状の筒には、作者一流のトリックが隠されている。春分・秋分の日の前後に、太陽の光が筒の中に差し込むと、北九州市の花であるヒマワリの形が影となって歩道上に出現するという仕掛けだ。
ただし、その時期に必ず見られるわけではなく、市によると、気候や太陽の角度などいくつかの条件がそろったときに、数分間だけヒマワリが姿を現すのだという。
ほっこり遊び心
同市中心部の紫川に架かる10本の橋は、水辺を生かす街づくりのため1990年に始まった「紫川マイタウン・マイリバー整備事業」で架け替えなどが行われた。オブジェが並ぶ中の橋もその一つで、それぞれに自然にちなんだ愛称が付けられている。
ガス灯のある室町大橋は「火の橋」、モニュメントが風の力で動く中島橋は「風の橋」、そして中の橋は「太陽の橋」という具合だ。
市役所そばにある中の橋を庁舎屋上から見下ろすと、太陽のような大きなヒマワリが歩道からはみ出さんばかりに描かれている。
遊び心あふれる現代アートに遊び心で応えるように、作品に靴下をはかせる市民――。この街で暮らす人の”粋”を間近に見て、冬の海風が少しやさしく感じられた。