にぎわい再び 旦過市場そばの異文化交流拠点「タンガテーブル」
記事 INDEX
- 様々な国から様々な人
- 「皿の壁」と「扉の壁」と
- 「寄せ集め」は楽しい?
昨年の4月19日、8月10日と2度の大火に見舞われた北九州市小倉北区の旦過市場。そばを流れる神嶽(かんたけ)川を挟み、市場の向かいに位置するゲストハウス兼飲食店「Tanga Table(タンガテーブル)」には、コロナ禍で減少していた宿泊客がまた訪れ始め、国際色豊かな交流の場として活気を取り戻しつつある。
様々な国から様々な人
タンガテーブルが入居するのは、6階建てビルの4階部分。小倉の中心部にありながら15年ほどの間、空きスペースになっていた約600平方メートルを改修して2015年にオープンした。街の隠れた魅力を旅する人に伝えたい――という思いから生まれた。
ところがコロナ禍で旅行客が大幅に減少。緊急事態宣言後は、時短営業や一時休業を余儀なくされた。コロナ禍が次第に落ち着きをみせる中、以前の3割程度の水準まで客足が戻ってきたという。
ゲストハウスは3000円から利用できる低価格の宿泊施設で、バックパッカーと呼ばれる外国人旅行者の利用が多い。コロナ禍前は6割が外国人で、その8割は韓国だったそうだ。現在はドイツやイギリスなど欧州を中心に海外からの観光客が戻ってきたものの、7割は国内の人たちによる利用だという。
ベッドは67床。個室、4人部屋、最大16人が泊まれる相部屋形式のドミトリーなどがあり、キッチンやシャワーは共用だ。
料金が安く、長期滞在者が多いのが特徴で、1年以上も”住む”強者(つわもの)もいたそうだ。ミャンマーで働いていたが政変で再入国できなくなり、ここで入国のタイミングをじっと待ったケースもあるという。
国内客だと、どんな人が利用するのだろう? 店長の西方俊宏さん(33)に聞いた。
福岡市内でコンサートを楽しんだものの市内でホテルが取れなかったり、値段が高かったりで、格安のタンガテーブルまでやって来る人も多いそうだ。
中には「夫婦げんかをして……」と訪れる夜中の来客も。「からだ一つで来られるし、話し相手もいるので」と、近隣住民の”一時避難所”として使われることも珍しくないという。「地元のニーズにも、ちゃんと応えていますよ」
「皿の壁」と「扉の壁」と
タンガテーブルの顔の一つとなっているのは、ゲストハウスに併設する飲食店の「壁」だ。約500枚の皿が壁一面に飾られた光景は圧巻だ。
ほぼすべてが長崎県の波佐見焼。壁をデザインした人物の知り合いが窯元におり、安く大量に買い付けた。オープン前、DIYに関心のある有志で飾り付けたという。
「皿の壁」の向かいには、「扉の壁」がある。カラフルな扉の図柄がパッチワークのように並んでいる。
デザインの”意図”を西方さんに聞くと、「北九州・小倉といえば『寄せ集め』のイメージがある」という答えが返ってきた。60年前に北九州市が誕生した「五市合併」もしかり。隣の旦過市場も、様々な店が寄せ集められたようにひしめいている。
「リバーウォーク北九州もそう。小倉城のすぐ隣に原色をふんだんに使った斬新な建物がある風景は、『寄せ集め』が得意な小倉ならではと思いませんか」
「寄せ集め」は楽しい?
オープン当初は「たくさんの人が集まるにぎわいの場」に重きを置いていたタンガテーブル。現在は、「共通の目的を持つ人たちが集い、交流し、関係を深め合う場」をつくることに力を注ぐ。
飲食店のスペースは、イベントや会合など貸し切りでの利用が増えている。その際の料理の食材は、旦過市場でほぼそろうという。
交流の一環で始まった英会話のイベントも好評だ。スタッフは海外生活経験者ばかり。地域で暮らす外国人のほか、英語は話せなくても異文化に関心のある人も参加する。これまでに数百回開き、毎回20~30人が集まるそうだ。
留学やワーキングホリデーなど海外生活の情報交換をしたり、時には山登りやサッカー観戦を一緒に楽しんだり。壁の模様と同じように、いろんな人が寄り合い、充実した時間を共有する場になっているようだ。