窓外に広がる緑の別世界 「道原ガーデンカフェ」で癒やしの時間

ガラスのテーブルに映し出される道原地区の山々

記事 INDEX

  • 古民家に一目ぼれ
  • 季節が描く”絵画”
  • 地域が応援団に!

 北九州市の中心部から車で30分ほど。四方を自然に囲まれた小倉南区道原(どうばる)に、築130年の古民家を再生した「道原ガーデンカフェ」がある。窓の外に広がる田んぼや山々の緑を眺めながらコーヒーや店主オリジナルのスープを楽しめる。

古民家に一目ぼれ

 鱒淵(ますぶち)ダムに向かう途中、のどかな田園地帯にカフェはある。田んぼではアメンボやオタマジャクシが泳ぎ、耳をすますと川のせせらぎ、スズメやヤマドリのさえずりが聞こえる。


田んぼではアメンボやオタマジャクシが泳いでいた


 「道原の雰囲気が好きで、よく立ち寄っていました」という女性店主。この場所に「友人や仲間と一緒に過ごせる家があればいいな」となんとなく考えていたそうだ。


 「この辺りに空き家はあるのですか?」と、たまたま声をかけた地元の人に紹介されたのが、この古民家だった。季節は秋――。雨戸を開けて外からの明かりが差し込んだ瞬間、黄金色の稲穂が風に揺れる光景に「一目ぼれした」という。


田園地帯にたたずむ築130年の古民家、道原ガーデンカフェ


 「この絶景を自分だけで味わうのはもったいない。たくさんの人に見てほしい」と思った。ここでカフェを開けば、美しい景色や充実した時間を多くの人と共有できると考え、すぐ実行に移した。


青々とした田んぼを前にコーヒーを楽しむ女性客


 およそ1年かけて大改造し、2017年にオープンしたカフェ。「田んぼに囲まれた環境こそが最大の魅力」と壁面に窓を広くとり、田んぼに向かってコーヒーを楽しめるスペースを設けた。玄関には薪(まき)ストーブを置いた。


「ごちそうさま、おいしかったです」。薪ストーブのある玄関で


 「自然の中で癒やされる」「空気が透き通ってきれい」――。SNSや口コミで評判がじわじわと広がり、福岡市や山口県からもリピーターが訪れるようになった。


壺焼きスープを中心とした唯一のランチメニュー


 店主が1人で切り盛りするカフェ。ランチメニューは、壺(つぼ)焼きスープ、チーズトースト、サラダと食後のコーヒー、デザートのセット(2200円)のみ。1日15食限定で予約が必要だ。


 ランチタイムが終わった部屋で、特別にゆっくりいただいた。


熱々の壺焼きスープ


 「このスープよりおいしい料理を、私は作れないから」という自慢のスープ。鍋に入れたタマネギとトマトが見えなくなるまで、前の日からじっくりと煮込む。濃厚でくせになる味。このスープを求めてリピーターが訪れる、というのもうなずける。直火で炊いているからだろうか、最後まで温かさが保たれていた。



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季節が描く”絵画”

 カフェへたどり着くには、鱒淵ダムに続く車道を右折し、狭い田んぼの一本道を進まないといけない。


カフェは車1台が通る一本道の先にある


 「こんな細い田んぼの中の道を本当に通るの?」。小倉南区に住む岡崎みなみさん(35)はちょっと戸惑いながら、リピーターとなった母親らと4人で訪れた。


「別世界に来たみたい」と岡崎さん


 「ここは自宅と同じ小倉南区だけど、別世界に来たみたい。窓の外を見ていると癒やされますね」と、リラックスした時間を楽しんだ。


 集落を抱く山々と田んぼが織りなす素朴な風景は、季節の移ろいとともに様々な表情を見せてくれる。


L字形の縁側からは田園風景と緑の山々が間近に観賞できる


 春、山桜のピンクが斜面に彩りを添え、水が張られた田んぼに新緑が映える。


 夏、稲が育った緑の田んぼの上を、子育て中のツバメがにぎやかに飛び交う。

 秋、赤や黄に色づいた山々が、黄金色に輝く稲穂をやさしく包み込む。

 冬、うっすら雪化粧する山里。薪ストーブやいろりが部屋を温めてくれる。


稲の上を吹き抜ける風がさざ波をつくる


 目の前に田んぼが広がる席で一息つく。草刈りをする男性の姿が見えた。稲を揺らす夏の風が、さざ波となって男性の方へと向かう。


 視界を広げてみると、青空に点在する雲が田んぼにまだら模様の影をつくっていることに気づく。その影は谷間を抜ける風と同調するように田んぼの上を進み、ゆっくりと山を登っていく。


コーヒーに映る夏の雲


 こんな風景を見たのはいつ以来だろう――。いや、初めてかもしれない。


 自然が見せてくれるスペクタクルに心を動かされる一方で、目の前のすべてを1枚の写真で表現するには、どう切り取ればいいのだろうか――と、もどかしさも感じた。

 「カフェには原則、絵を飾りません」と言う店主。窓からの風景こそ、自然が描く絵画。このすばらしさを存分に伝えるためにも、他の絵は置きたくないのだという。


窓から見える風景こそ、1枚の大きな絵


 音楽もしかり。カフェではビートルズを中心とした洋楽が、会話を邪魔しないよう静かに流れる。日本の歌はあえて流さない。歌詞に気を取られることなく、何も考えずに窓の外を眺めてほしいという思いからだ。


地域が応援団に!

 「店を開いて、年々ここが好きになっています」と店主。道原でカフェを始めるアイデアを伝えたときは、「こんな所に誰も来やしない」と地元の人からも否定的な声が聞かれたという。


窓に映る山々と部屋の様子が重なって見えた


 ところが蓋を開けてみると、ほとんど見かけることのなかった若い人たちが道原を訪れるように。彼らは、近くにある菅生(すがお)の滝や春吉の眼鏡橋などにも足を延ばし、地域に眠る魅力にも光があたった。


春吉の眼鏡橋


 「何もない田舎に人が来てくれるのがうれしい」。気がつけば、地元の人たちもカフェを応援してくれていた。


 取材で訪れた日の朝もそう――。カフェ玄関前の石臼に、地元の女性の家で育ったアジサイの”差し入れ”が。玄関だけでは飾りきれず、花瓶に入れてカフェに置いた。


玄関の石臼に生けられたアジサイ


 「コスモスが広がる景色を見たらお客さんが喜ぶと思って」と、昨年秋には年配の男性が数千本のコスモスを休耕田に咲かせてくれたそうだ。


田んぼに面した道原ガーデンカフェ


 「車の出入りがうるさかったり、邪魔だったりするだろうに、カフェを受け入れ、応援してくれるのがうれしいし、ありがたい」。道原という場所、そしてここに住む人たちのことが、ますます好きになっているという。


気さくで明るい店主とのおしゃべりも好評だ


 そんな地区には、おしゃれなカフェや飲食店が一つまた一つと増えている。「いろんなお店ができて『散策するだけで楽しい』と言ってもらえるような山里になるといいな」。道原を愛してやまない店主の思いは広がる。


<道原ガーデンカフェ>
 北九州市小倉南区道原1303-4
 電話:090-1363-0781


豊かな自然が広がる


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