「本ガチャ」で広がる世界 門司港駅そばにできた本屋カフェ

店内にあるガチャガチャ、本の番号が入ったカプセルとカバーがかけられた本

記事 INDEX

  • レトロな街の一角に
  • 人生を変える出会い
  • 立ち読みも大歓迎!

 コロナ禍による渡航制限が緩和され、外国語の会話を耳にする機会が徐々に増えてきた北九州市門司区の門司港レトロ地区。2022年11月にオープンした「みぢんこ」が、本のガチャガチャがある本屋カフェとして話題を呼んでいる。

レトロな街の一角に

 店舗は重要文化財・JR門司港駅から歩いて1分ほど。窓の外に関門海峡が広がる築90年のビルの1階にある。


JR門司港駅そばにある店の前に立つ野村さん

 ランプの明かりで演出され、ガラス製のポットなどが並ぶおしゃれな店内。店に入ってすぐ正面に、そのガチャガチャは置かれている。2種類あり、上段は一般書籍で1回1600円、下段の漫画本は470円だ。


1933年に建てられた海運会社のビル1階にある店舗

 専用のコインを購入してハンドルを回し、カプセル内の紙に記された番号の本を受け取る。本にはブックカバーがかけられており、手に取って開くまで、どんな内容なのかは分からない。


専用のコインを入れてハンドルを回す

 いずれもオーナーの野村伸二さん(47)が「お客さんをがっかりさせないように」と、思いを込めて選んだお薦めの本だ。


有名な本から、小さな出版社の本まで約1000冊が並ぶ

 ガチャガチャを回す客の9割は女性だという。当たり外れのあるゲーム性にはまったのか、あるいは「何か読みたいけど、読みたいものが見つからない」という気持ちに刺さったのか――。中には3回チャレンジした女性もいるそうだ。


「無名の作家さんの本にもすぐれたものが隠れている」

 もちろん書棚の本も購入できる。2冊を買い求めた福岡市の会社員・藤野公太朗さん(28)は「おもしろい本が多い店だと思う」と、ガチャガチャにも挑戦。「普段は手を伸ばさないような本に出会えると思うとわくわくします」と、番号が書かれた紙と本を引き換え、「あとで一人になった時に開いてみます」と笑顔で店を後にした。


「その人にとって『はずれ』だと本当に申し訳ない」と野村さん

 ガチャガチャには金額以上の商品を入れており、漫画のカプセルには、キーホルダーやシールなどのおまけも付いている。来店客の傍らで購入方法などを説明している野村さん。「その人の心に響く本が当たりますように――。ハラハラしながら見守っています」 


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人生を変える出会い

 野村さんの本業は照明灯の販売などだ。キャナルシティ博多(福岡市)のイルミネーションや街灯なども手がけている。


ランプの明かりに照らされた店内で


 どうして書店を?


 子どもの頃は漫画を、20歳を過ぎると小説などを読むようになった野村さん。年齢を重ねるにつれ、本の魅力に取り付かれ、過ぎた時間を取り戻すように読書に没頭し、毎月4万~5万円を書籍代に費やすほどに。さらに、10年ほど前から「自分で本屋を開きたい」という思いが膨らんできたのだという。

 周囲から「本屋はもうからない」と反対されたという野村さん。それでも自分の意志を貫いた。


訪れた客と本談議に花が咲く

 「現代は、本を読まずに、受け身の姿勢でネットに走りがち。読書はある意味で苦行かもしれないが、新たな自分を見つける契機になる可能性もある」と話す。人生を変える一冊と出会えるかもしれない本屋を、もっと身近な存在にしてほしいと願う。


店に置かれたガチャガチャ。「新たな本との出会いに」


 本のガチャガチャはスタッフと一緒に考えた。書棚で手に取るのは、どうしても関心のある分野に偏りがち。ちょっと”冒険心”が求められるが、運命の本に出会うにはガチャガチャが向いているのかもしれない。今のところ、珍しさも手伝って店の顔になっている。


立ち読みも大歓迎!

 名の知られた本のほかに、耳にしたことがない出版社の書物が多いのも、ここ「みぢんこ」の特徴だ。


セレクトされた図鑑の隣には、写真集や長く愛される絵本が並ぶ

 「本屋に同じ本ばかり並ぶのはおもしろくない。福岡で、うちにしかない本も多くありますよ」と野村さん。本棚には幅広いジャンルが並び、本好きオーナーの個性が色濃く反映されている。

 「正直、もうけは厳しいですが、やってみると、やはり楽しい。買ってもらえると、自分の子どもが巣立っていくような気持ちになる」。仕入れた商品は売れなくても出版社に返本しない。「誰かに買ってもらえるまで面倒をみたい」と話す。


限定販売の希少な本と一緒に

 入荷した本は、インスタグラムで紹介しており、中には女性スタッフが率直な感想をつづったものもある。

 例えば「渋イケメン」シリーズの写真集――。『スタッフは表紙からして好みではなかったのですが、オーナーがどうしても入れたかったらしく…でも、ちょっと覗(のぞ)いたらイケメンがいっぱいで買おうか迷っている自分が嫌でした』


スタッフお薦めの写真集を手に

 取材で訪れた日にも、「インスタグラムを見て、ぜひ読みたいと思って」とスタッフお薦めの本を購入する女性客がいた。

 街なかの本屋がなくなっていく中、「みぢんこはまだ残っているね、と言われたい」と野村さん。ガチャガチャを含め、本と出会うきっかけを広げるために試行錯誤を続けていくつもりだ。


立ち読みだけでも大歓迎。「年を取っても続けていきたい」

 カフェとしても営業しているが、立ち読みだけでも大歓迎という。「年を取っても一人で残って続けたい」。本を愛する気持ちがひしひしと伝わってきた。



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