頭も体も動かして お年寄りの笑顔広がるコミュニケーション麻雀
「リーチ!」「いや大丈夫、大丈夫よ」――。お年寄りたちの明るい声が響く。その手元にあるのは、積み木サイズの
自宅の外に居場所を
福岡県福津市にある東福間団地の集会所では5、6年前からコミュニケーション麻雀が行われている。月に3回ほど、団地のお年寄り15人前後が集まって楽しんでいる。
普通の麻雀牌は、指でつまめる2、3センチほどのサイズだが、この巨大な竹製の牌は、縦10センチ、横7センチ、厚さ5センチで、重さは約240グラムある。
コミュニケーション麻雀という名前の通り、勝ち負けよりも、会話や交流を大切にする。モットーは「ペアとよくしゃべり、相談する」こと。そして「(酒を)飲まない」「(たばこを)吸わない」「(金を)賭けない」。
自治会長で、この麻雀サロンをまとめる成富勝義さん(83)は「引きこもりがちな団地のお年寄りに、まずは外に出てもらい、居場所を見つけてほしかった」と導入の経緯を説明する。
「どの牌を捨てる?」。隣に座る仲間と相談しながらゲームを進める参加者たち。長いテーブルを四つ合わせて一つの卓を作るため、反対側にある牌の山に手が届かないこともしばしばだ。
「あれ、取って」「これね、はいどうぞ」「ありがとう」。牌のそばにいる対戦者が代わりに手を伸ばし、自分に見えないよう相手に渡す。互いに助け合いながら楽しい時間が流れ、対戦チームとの交流も自然と深まる。
大きな牌をかき混ぜたり、持ち上げたりするため、指先や腕の運動になる。牌をさばくには立ったり座ったりも必要で、知らず知らずに足腰を動かしている。脳の活性化につながり、「物忘れの頻度が減った気がする」といった声も聞かれるという。
わいわい楽しい時間
10月下旬に開かれたサロン。集会所には、弁当を持参して朝10時からゲームを楽しむ吉田利志子さん(77)の姿があった。
4年前に団地の知人に誘われたが、「麻雀? ルールも知らないから」と受け流していた。それでも強く勧められ、「家でテレビをずっと見ているのもね……」と試しに顔を出した。やってみるとルールは易しく、隣の仲間に教わりながら楽しめた。「自分でもびっくりするほどはまってしまいました。あの時、出かけて本当によかった」と吉田さんは振り返る。
「同じ団地で暮らしていても顔が分からない。集会所では、知らない人と自然に会話ができ、交流が広がる」と吉田さん。「みんなでわいわいと、楽しいですよ」と満面の笑みを見せた。さらに「しっかり頭を使う」ため、夜もぐっすり眠れるそうだ。
高齢者向けのレクリエーションが多様化する中、注目されるコミュニケーション麻雀。考案した兵庫県の任意団体「コミュニケーション麻雀協会」によると、2010年ころから広がり始め、牌は現在も全国約450か所で大切に使われている。
東日本大震災や熊本地震など被災地の仮設住宅では、殻に閉じこもりがちなお年寄りの交流に役立ったという。東北の被災地の集会所や復興住宅では、ボランティアらと一緒に卓を囲むお年寄りの姿が今も見られるそうだ。
東福間団地のサロンでは、好成績を収めた参加者に、ささやかな”賞品”として福津市指定のごみ袋が贈られる。「これがあるから女性の参加が多いんですよ」と成富さん。団地の一角で、笑顔の花がまた咲いた。