発達障害の当事者の目線で 福岡に就労支援のスクールが開校

オープンを前に思いを語るスタッフの片渕さん

記事 INDEX

  • 自分と向き合いながら
  • 教室の設計にも配慮が
  • 「安心して挑める場に」

 発達障害のある人が就職を目指し、自身の特性と向き合いながら専門的なITスキルを身につけるスクールが4月、福岡市・天神に開設されます。発達障害の診断を受けたスタッフもおり、当事者の目線で利用者のサポートにあたります。スタッフの片渕一暢さんは「楽しんで学び、自信をつかめる場所にしたい」と話します。

自分と向き合いながら

 就労移行支援事業所の「テックキャンプ 就労移行スクール福岡校」で、商業施設「天神ショッパーズ福岡」のオフィスエリアに入居。現在は、4月に向けて体験会などを開いています。


パソコンを使った自学が中心で、分からないところはスタッフが教える

 「テックキャンプ」は、IT教育事業を手がける「div」(東京)による学習サービス。転職や大人の学び直しなどを目的に、パソコンの基本的な使い方から、エンジニアを目指すプログラミング技術まで幅広いコースを受講できます。

 「就労移行スクール」は同社が新たに参入した福祉事業です。発達障害に特化し、福岡校では基礎的なIT技術などを学ぶコースや、発達特性を理解して生活するためのライフスキルを身につけるコースを用意。定員20人で、就労の意思があり障害者手帳を交付された人か、医師の診断書や意見書を持っている人が受けられます。所得状況にもよりますが、ほとんどの人が無料で利用できるそうです。

 個別学習が基本ですが、生活習慣見直しなど利用者の成長を手助けする生活支援員(ライフコーチ)、ITの専門分野を教える職業指導員(メンター)などのスタッフがいます。また、就労支援員(キャリアアドバイザー)が就職活動の相談に乗り、就業後も半年間は、安心して働ける実感が得られるよう面談を受けられます。


グループワークも行う中薗さん。「仕事以外にも、人と関わる楽しさを伝えたい」

 人と会話をする機会が少なかったり、苦手だったりする利用者も想定されるため、月に数回のグループワークも計画。メンターの中薗優輝さんは「就職後のことを考え、周囲とうまくコミュニケーションがとれる準備をしていきたい」と話します。

 これらのサポートを受けながら、ITやシステム運用のエンジニア、WEBデザイナー、営業や事務職など、利用者が目指したい職種を見つけていきます。


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教室の設計にも配慮が

 スクールは発達障害の人に配慮した空間です。壁紙は白と灰色、机は木目調で、清潔感のあるシンプルな内装が印象的です。「壁紙に文字やイラストなどの情報が入っていると、それだけで注意がそれてしまいます」と片渕さんが説明してくれました。


福岡校の様子。席は自由で、好きな場所にパソコンを置いて学習する

 パソコンの電源コードなどが絡まると、気になって集中できなくなることもあるため、机の上はスッキリしています。椅子に座り続けることができない多動性の人のために、立ったまま作業ができる脚の長い机なども備えています。


残り時間が視認できるタイマー。「これが便利。デジタルだと直感的に分かりづらい」

 支援グッズもあり、音に過敏な人には耳栓やイヤホンを用意し、過集中を防ぐために残り時間を可視化できるタイマーも貸し出します。

「安心して挑める場に」

 「今日は何についてお話ししましょうか」。同校ではライフコーチが相手に問いかけながら、様々な考えや選択を引き出す「コーチング」の手法で面談を進めます。


話に耳を傾ける片渕さん


 片渕さんはライフコーチで、アメリカの教育機関が認定する発達障害のコーチング資格を取得しています。学習成果の振り返りはもちろん、私生活に関わる相談にも乗り、行動計画を考える手助けなどをします。

 発達障害の人の中には、朝起きられずに遅刻したり、衝動買いを抑えられなかったりするケースもあります。まず自身の特性と向き合うことが大切で、自らを理解したうえで生活習慣などを見直し、気持ちに余裕のある状況をつくっていくそうです。最終的には、自分で立てた目標を最後までやり遂げ、成功体験を積み重ねていくことを目指します。


面談用の部屋があり、いつでも相談に応じる

 自立できたと思ってもらえるまでサポートを続けたい――。そんな思いの片渕さんは、10年ほど前にADHD(注意欠如・多動性障害)と診断された当事者でもあります。

 かつて、特産品のブランディングなどを行う地域商社に勤めていた片渕さん。新規事業を担当していましたが、多忙になるにつれ、書類の記入漏れが頻発し、仕事の優先順位が付けられなくなる状況に陥ったそうです。

 仕事がたまる一方の悪循環で、周囲から「どうしてできないの?」という目が向けられました。自分でも理由が分からず、生活リズムも崩れていきました。「頭の中につけっぱなしのテレビが3台あるようで、常に騒がしい状態でした」と振り返ります。

 抵抗はありましたが、医師に診てもらうことに。診断を受けてからは、気持ちを割り切り、少し客観的に自分を見つめることができるようになったといいます。薬を服用しながら、自分の症状と向き合うために、コーチングのスクールにも通いました。

 酒をやめ睡眠をしっかりとったり、食生活を変えたり、毎日の習慣を見直すと気持ちに余裕も生まれました。少しずつですが、できることが次第に増えていきました。


「安心してチャレンジできる場所に」

 「同じ境遇の人の支えになりたい」と会社を辞め、2018年にdivに入社しました。「自分がつらかった経験があるから、同じ気持ちを抱える人の理解者になりたい」と片渕さん。「成功体験を少しずつ積み上げながら、安心してチャレンジができる場所を目指します」



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