コロナ禍はメディアを変えるか ジャーナリスト古田大輔さんに聞いた
デジタルシフトは大前提
――メディアもコロナ禍で変わるでしょうか。
ニュースメディアは新型コロナ以前から緊急事態でした。コロナ禍によってデジタル化は推進されていくでしょうが、以前からニュースメディアは世界的に厳しい状況にあり、各社が生き残りに苦心しています。自分たちはどういう価値を社会に提供できるのか、根本に立ち返って突き詰める必要があります。
ニュースメディアのデジタルシフトは大前提だと考えています。大きな新聞社は現状のままで生き残るのは難しいでしょう。デジタル部門の売り上げが、全体のコストを賄うほどにはならないからです。しかし、デジタルシフトをしておかないと、助かる見込みもゼロだと思っています。ニュースはスマートフォンなどで読む人がほとんどになり、デジタルシフトをしなければ読者にニュースを届けられなくなります。情報を届けられないのなら、ニュースメディアとして死んだも同然です。
今や、オンラインの世界は、現実世界と一体化しています。デジタルをいまだに「仮想空間」と捉える人がいますが、オンライン上で人と会うし、議論もするし、買い物もします。オンライン消費は増え続けているわけで、オンラインでビジネスをする前提に立つ必要があると考えています。
――求められる情報も多様化しています。
新型コロナウイルスによって、ニュースの消費量が爆発的に増えました。ニュースメディアが社会に求められている証左です。新型コロナに限らず、社会生活を送る上で情報は欠かせません。米国には「Patch」というメディアがあります。ハイパー・ローカルメディアと呼ばれ、極めて狭い地域に特化したメディアです。キャッチフレーズは「Find out what’s happening outside your front door(玄関前で起きていることを見つけて)」。新型コロナで、目の前で起こっている日常の情報が必要とされました。多くの人が身近な情報の重要性に気づきましたし、気づいていかないといけないと思っています。
メディアに求められる「信頼」
――福岡に戻る選択肢は?
福岡で暮らしていたのは、大学に進学するまでと、新聞記者時代に勤務していた3年間があります。福岡が大好きなので戻りたい気持ちもあります。ただ、日本のニュースメディアが今後どうなるのかという問題意識があります。これに関する仕事をしたいので、もうしばらくは東京でやりたいと思っています。
福岡の魅力は海も山も近くて、食べ物もおいしく、こじんまりして人と触れあえて、みんな温かい。ふるさとなので友人も多いですし。メディアビジネスの視点だと、ある程度の人口規模があり、しっかりした文化が根付いていて、九州の中核都市として情報や人脈のハブにもなっています。海外の韓国や中国にも近いというのも条件としてはいいです。ローカルメディアに可能性を感じていますし、必要だと思っています。福岡はローカルメディアが生きていくいい条件がそろっていると思っています。「福岡でうまくいかないんなら、どこでやってもうまくいかないんじゃないの」とすら思っています。
――最後に、これからのメディアについて。
メディアは批判されることも多いです。ただ、誤解に基づいた批判もあります。信頼を勝ち取るべく、説明していく責任がメディア側にもあります。昨年、デジタルジャーナリストのための非営利組織「オンライン・ニュース・アソシエーション」で盛んに議論されていたのが「信頼」についてです。どうやって信頼を"獲得するか"が議論されました。信頼は獲得しなければならないもの。メディアが信頼を獲得するために議論や努力がどれだけなされてきたのか、いまいちど振り返る必要があると思っています。