コロナ禍はメディアを変えるか ジャーナリスト古田大輔さんに聞いた
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インターネットメディア「BuzzFeed Japan(バズフィードジャパン)」の創刊編集長を昨年6月に退任したジャーナリスト・古田大輔さん。フリーランスのジャーナリストとして活動しながら、メディアコンサルティング会社をおこし、メディア各社の連携に取り組んでいます。そして今回の新型コロナウイルス。オンラインでのニュース消費が急増し、ニュースメディアの重要性があらためて示されています。東京にいる古田さんとオンラインでつないで話を聞きました。
古田大輔さん
1977年生まれ。福岡市出身。株式会社メディアコラボ代表。朝日新聞記者からバズフィードジャパン創刊編集長を経て2019年に独立。オンライン・ニュース・アソシエーション日本支部、ファクトチェック・イニシアティブなどでも活動。
広がるメディアのコラボ報道
――新型コロナウイルスの影響は?
私自身、イベントなどでの登壇、メディアや企業によばれた勉強会などが全て中止や延期になってしまいました。仕事にも大きな影響が出ています。起業してはいますがフリーランスに近く、決まった給料をもらう生活ではありません。フリーランスや自営業の人たちが受けているダメージを私自身も肌身で感じています。
――昨年、バズフィードジャパンの創刊編集長を退任しました。
バズフィードを退任後、フリーのジャーナリストとして活動を続けながら、メディア運営をサポートする「メディアコラボ」を起業しました。ネット、新聞、テレビに限らず、企業やNPOなどのメディア運営についてコンサルティングしています。
――なぜ起業しようと?
近年、複数のメディアがコラボレーションし、互いの強みを生かす取り組みが国内外で活発になっています。米国の優れた報道に贈られる「ピュリツァー賞」は今年、最も権威のある「公益報道部門」に、アラスカ州の地方紙「アンカレジ・デイリー・ニュース」の特集「LAWLESS(無法)」が選ばれました。編集局員が30人に満たない地方紙ですが、調査報道を担う非営利団体「プロパブリカ」の支援を受け、州内の集落の多くで警察の保護が及ばずに性暴力などが横行している実態や司法制度の問題を取り上げました。プロパブリカがデータ分析を担当し、アンカレジ・デイリーは足で稼いで州内を取材しました。メディアのコラボによって成功した事例です。
国内では西日本新聞(福岡市)を中心にしたオンデマンド調査報道「あなたの特命取材班」が、全国の地方新聞社や民放テレビ局に広がっています。また、全国24のメディアとGoogle ニュースイニシアティブの協力によって運営するサイト「コトバのチカラ」は、メディアコラボが事務局として携わっています。
――「あなたの特命取材班」をはじめ、国内外で「課題解決型」の報道に注目が集まっています。
報道機関がニュースを提供する目的は、より良い社会を実現するためですよね。しかし、社会課題を報じても、問題が改善されず放置されるケースもたくさんあります。それなら、問題が解決するまでフォローして、記事にし続けることの方が望ましい。そういった意味で「課題解決型」のジャーナリズムの考えが注目されています。
メディアは腰を据えて課題解決に取り組まねばなりません。アンカレジ・デイリーの特集は、1年以上にわたるキャンペーンです。取材も含めると、さらに長い時間をかけて取り組んでいます。一つの課題にそれだけの労力をかけて取り組めるかどうか。日本の報道機関の姿勢が問われています。
求められる情報の分析を
――国内メディアの現状をどう見ていますか?
客観的に見ても、これまで国内ニュースの多くは新聞社が供給してきました。各社で異なりますが、朝刊にはだいたい200本程度の記事が掲載されています。日本新聞協会に加盟している新聞社だけで約100社あります。それだけの量のニュースを日々、提供しているわけです。今後、多くのニュースメディアが経営的に厳しい状況に立たされるだろうと見ています。新聞社が硬派なニュースを提供する体力をなくした先の社会に何があるのか。どこか一社だけの問題としてではなく、業界全体として考えるべきでしょう。
――インターネットメディアは?
エンタメやライフスタイルの情報は比較的お金になりやすいと言われています。エンタメニュースは世間を楽しくしてくれるし、ライフスタイルニュースは生活に役立つ情報です。これらの情報を発信するのは、いいことだと思っています。ただ、物事を深く掘り下げる硬派なニュースも必要です。海外と比較して、そこに挑戦する国内の新興メディアがまだ少ないですね。
――インターネットメディアの強みは?
紙媒体では個別の記事がどれだけ読まれているのかというデータ分析ができません。デジタルメディアの強みは、記事ごとの閲覧数、読んでいる時間、別の記事への遷移などが分かります。つまり、読者が求めている情報を分析できるようになりました。ジャーナリズムとマーケティングが噛み合えば、成長は可能です。
ですので、読者がどんな情報を求めているのかは分析すべきです。各社が単独で行うのではなく、データを持ち寄り、連携した方がいい。自社のデータだけで考えるのはもったいないと思っています。
――新型コロナウイルスでニュースの消費量が増えています。
誰もが新型コロナウイルス関連の情報を求めています。例えば、新規感染者数をグラフ化して、分かりやすく見せてくれるサイトは人気です。ただ、多くの人は新規感染者数の推移だけ見ても、数字の意味を正しく理解できません。PCR検査数の推移など、新規感染者数の増減には複数の要因が隠れているからです。解説を加え、読者の理解を助ける必要があります。ぱっと見て分かる情報と、数字の意味を解説した情報、この両者をまとめて満たしてくれるメディアが見当たりませんね。ですから、私も含め、多くの人は複数のサイトをあれこれ探さないといけない。
新聞は「○日、△△がわかった」のように、日々の新しい情報にフォーカスして紙面づくりをする特徴があります。「昨日からこう変化して、今はこうなっています」といった、アップデート型の報道が苦手だと感じています。新型コロナウイルス関連のニュースでは、情報の理解を促す解説記事にニーズがあるようです。
――リモートワークが進みました。働き方も変わりそうです。
新型コロナは、今までの働き方を変えるきっかけになるかもしれません。リモートワークの推進で、集まらなくてもできたことがいっぱいあります。会議を減らすこともできたでしょうし。このタイミングで作業を能率化すべきですね。
――今もビデオ会議システムを使ってインタビューしています。
デジタルツールが苦手という人も組織にはいるはずです。でも、苦手でも使えるようにならないと、誰か一人のためにチーム全体が困ります。バズフィード時代の採用面接では、「デジタルツールを使わないなら採用しない」と言っていました。覚えればいいだけ。そんなに難しくありません。今の時代、オンラインミーティングができないというのは、一昔前に電話が使えないというのと同じです。