うちの館長が見つけました 福岡市科学館で「新種はっけん!展」

矢原館長の企画展が4月26日にスタート。イラストの館長は新種のウツギを手にしている

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  • 子どもの頃から植物が好き
  • 全国を調査して次々に発見
  • 科学が好きな子どもたちへ

 福岡市科学館(中央区六本松)の矢原徹一(てつかず)館長が、2020年以降に全国で見つけた植物の新種121種を紹介する「新種はっけん!展」が4月26日、同館で始まります。5月26日まで。会場では新種の一覧、採取した植物や標本などを展示し、野草の塗り絵やビンゴゲームなども行います。開幕を前に矢原館長に会いに行きました。


矢原徹一さん

福岡県糸島市出身。京大理学部卒。東大助手、助教授を経て1994年から九大教授。2020年3月に退職し、同10月から福岡市科学館長。専門は植物分類学、生態学など。平日は調査と論文執筆に追われ、週末は館長として子どもたちに科学の楽しさを伝える。九大名誉教授。

子どもの頃から植物が好き

 「これは中学校時代の私の書き込みですね」。九州大の伊都キャンパスにある研究室で、矢原館長が学者の道に進んだ原点ともいえる愛用の図鑑を見せてくれました。

 子どもの頃に親に買ってもらった図鑑で、日本に自生する植物のことが詳しく書かれ、福岡でみられる野草のほとんどが載っていました。余白の至るところには、県内のどこに分布するのか、記録を基に自身で調べた情報が書き込まれています。


図鑑を手にする矢原館長

 物心ついた頃から生き物が大好きで、放課後や休みの日にはよく植物を探しに出かけました。図鑑には、名前のみで詳しい記述がない種類もあり、「この種の正体を知りたい」と大学の論文のコピーを取り寄せて調べたこともあったそうです。

 高校卒業後は、本にも載っていない植物を知りたいと、図鑑の著者・北村四郎氏の研究室がある京都大に進みました。卒業後は東京大助教授などを経て1994年から九州大教授に。その間は植物と昆虫との関係性など、生態学について研究していました。


少年時代の書き込み。「篠栗」「太宰府」など、福岡県での記録から分布を調べた

 矢原館長が多くの新種を発見したのは九州大を退職した2020年以降です。それまでは遺伝子情報などを詳しく調べる方法が確立しておらず、採取した植物が本当に新種なのか、科学的に検証するすべがほとんどなかったそうです。

 2015年に東北大の研究チームが精度の高いDNA鑑定技術を発表。これにより遺伝子の配列の多様な違いを調べることができるようになり、様々な新種の発見につながりました。「新種が判定できるようになったのは、本当につい最近のことなんです」と矢原館長は話します。


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全国を調査して次々に発見

 九州大を退職した矢原館長は、環境省の依頼を受けて全国の絶滅危惧植物の調査プロジェクトに携わりました。その過程で各地を歩く中、「これは今までの種類とは違うんじゃないか?」という植物にいくつも巡り合います。


「ここでも新種が見つかりますよ」と伊都キャンパス内を歩く矢原館長


 例えばセリ科の植物「セントウソウ」。福岡で見慣れている種類と、岐阜や宮崎などで生えているものとでは、見た目に違いがあるそうです。


ツクシセントウソウを発見した矢原館長

 新たな鑑定技術で詳しく解析したところ、同キャンパスや舞鶴公園(福岡市)などに自生しているのは新種だと分かり、矢原館長は「ツクシセントウソウ」と呼ぶようにしました。「同じだと思っていたのが、実はいくつもの種に分かれていたんです」


採取したツクシセントウソウ

 ほかに、セリやノビルも1種類だけと考えられてきましたが、どちらも2種あることが分かりました。矢原館長は「サンプルを調べたら、私たちが普段食べているセリが新種だったんです」と教えてくれました。

科学が好きな子どもたちへ

 「新種はっけん!展」では、愛用の図鑑、全国を歩いて調べた研究成果などをまとめて紹介します。


新種の植物の標本を見比べる矢原館長

 矢原館長が見つけた121種の植物は、約3メートル四方のスペースで、写真と名前を一覧できるように展示します。そばには植物の特徴を検索できるタブレットもあり、詳しく調べることができます。

 ほかにも、桃色の新種のウツギの標本や、採取したツクシセントウソウの鉢植えなども並びます。


モモイロウツギと名付けた新種の標本。会場に展示する予定


 会場では、植物や標本を観察しながら行う塗り絵、植物の名前を探し当てるビンゴゲームも行う予定。ビンゴをクリアするとオリジナル缶バッジがもらえます。関連イベントも計画しており、館長と一緒に新種を探しに出かけるフィールドワークや、研究の裏話などが聞けるサイエンスカフェなども開催(いずれも事前予約制)します。


「なぜたくさんの種があるのか、進化の謎に迫るテーマだと思います」

 矢原館長は「自分が住んでいる身近な場所にも、こんなに多様な生き物がいるということに気づいてくれたらうれしい」と話します。「世界は発見に満ちています。いろんなことに興味を持って、気になったことはたくさん調べてみてください」



イベント名 新種はっけん!展
会期 2024年4月26日(金)~5月26日(日)
火曜休館(4月30日は開館)
開館時間 9:30〜21:30
開催場所
福岡市科学館 5階オープンラボ
(福岡市中央区六本松4-2-1)
料金 無料
公式サイト 新種はっけん!展


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