刀剣のまち・大牟田の「四郎國光」で日本刀の試し斬りを体験

四郎國光で体験できる、本物の日本刀を使った試し斬り

記事 INDEX

  • まちの魅力を再発見
  • 力任せではなくて…
  • 「死ぬまで修業です」

 本物の日本刀で試し斬りを体験できる――。そんな場所が福岡県大牟田市にあるという。刀剣を擬人化したゲームや、「刀剣女子」と呼ばれる女性ファンらの影響もあり、注目を集めている日本刀。博物館などでガラス越しに見るだけだった真剣を握れるとは、なんとも刺激的だ。体験を受け入れている刀工集団「四郎國光(くにみつ)」に連絡を入れ、7月おわりに訪ねた。

まちの魅力を再発見

 日本刀の試し斬り体験は、2022年に始まった「おおむたでたのしむ体験プログラム」の一環。ものづくりや炭鉱で栄えた大牟田の歴史と魅力を、再発見してもらおうと市が企画した。「天下五剣」に数えられる国宝「大典太(おおでんた)」などの名刀を手がけたとされる平安時代の刀匠・三池典太光世(でんたみつよ)のゆかりの地でもあることから、大牟田市は「刀剣のまち」をアピールしている。


現在も使われている昔ながらの日本刀を作る鍛冶場


 体験は、柳河藩御番鍛冶の流れを受け継ぐ四郎國光の鍛冶場で行う。現在も4人の刀匠が、美術刀や居合刀、包丁などを製造する伝統ある刀鍛冶だ。「一般の希望者が日本刀で試し斬りをできる場所は、全国でも珍しいのでは」と刀匠の小宮早陽光さん(65)は話す。訪れる人の7、8割が若い世代を中心とする女性だという。


先代の写真のガラス面に映る小宮さん


 最近はアメリカやカナダ、中国、台湾など海外から訪れる旅行者も増え、「サムライを体験できた」「ツアーの中で一番エキサイティングたった」といった声も聞かれるそうだ。大牟田市では外国語版の冊子も用意し、様々な体験プログラムや市の魅力をPRしている。


英語、中国語、韓国語などで紹介している冊子


 鍛冶場は、西鉄倉永駅に近い住宅街にある。火床(ほど)による伝統的な方法で日本刀を作る神聖な場だ。原料となる純度の高い鋼の塊「玉鋼」を、熱しては打ち延ばす作業を繰り返して刀ができあがる。


作刀で最も難しいとされる「帽子」と呼ばれる先端部分


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力任せではなくて…

 鍛冶場で刀の作り方や注意事項を聞いた後、実践のため外へ出る。用意されたのは、畳表を円柱状に丸めたもので、直径10センチ、高さ80センチほど。断ち切りやすくするために水に2、3日漬けているそうだ。はじめに小宮さんが手本を示してくれた。緊迫した空気の中、「ばさっ」という音が静寂を切り裂く。思わず息をのんだ。


刀を振り上げる小宮さん


 力任せではうまく斬れないのだという。手の運び方、体重のかけ方、微妙なバランス感覚を伴ってこそ、刀が持つ能力を引き出せる。教わった通りに「素直で自然な振り方」ができれば、斬った感覚もほとんどない”特別な手応え”があるそうだ。


力任せではうまく斬れない。素直に


 いよいよ試し斬りに挑戦する。小学校から高校のときまで剣道をしており、腕には多少の自信がある。しかし真剣を手にすると、ずしりと伝わる“重み“に気おされた。信仰や儀礼に用いられ、日本の伝統美が凝縮されている一面を理解しつつも、武器として多くの血を流してきた歴史を思うと、畏怖に近い感情が湧き起こる。


重さ約1キロの鉄の芸術


 小宮さんの丁寧な指導を受け、20回ほど素振りを繰り返す。「よし、やってみます」――。教わったことを反すうし、刀を振り下ろした。しかし畳表は半分ほどしか切れていない。「えっ、どうして?」。さらにチャレンジするが、うまくいかない。


「えっ? 切れてない」


 剣道や居合の経験がある人の方が苦戦するのだという。握り方、振り下ろし方、体重の運び方、どれも剣道とはまるで違う。「やわらかく、上から刀を下ろすことだけ考えて」。その言葉通りに、いざ――。3度目にしてようやく畳表が地面に転がった。その断面は不規則に波打ち、”斬った感覚がない”にはほど遠かった。


畳表の波打つ断面


「死ぬまで修業です」


 一振りの刀を作り上げるのに半年ほどかかるという。ようやく99%できたというとき、刃に不純物が混じっていることに気づいたり、細かい傷が見つかったりすることも。いったん形成したら修復はできないため、ちゅうちょなく処分するそうだ。


一振りの刀を作り上げるのに約半年かかる


 「何年くらいで一人前になれますか?」。刀剣作りに携わって40年以上という小宮さんに尋ねてみた。


 すると「まだ一人前じゃないけんね」と笑顔が返ってきた。「いいものができた」と満足した刀でも、翌日には「できが悪い」と感じることもあるという。「一生、納得いくものができるかどうか分かりません。死ぬまで修業ですよ」


死ぬまで修業ですよ


 試し斬り体験の料金は、鍛冶場の解説などを含めて1人3300円(3人以上の場合)から。1週間前までに予約が必要だ。



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