炭鉱社宅の記憶を後世に 大牟田の研究会が資料集刊行へ活動

元住民(左から3人目)と炭鉱社宅跡を巡る研究会のメンバーや嶋崎教授(左)

 福岡県大牟田市の市民グループ「三池炭鉱社宅史研究会」が早稲田大学の協力を得て、旧三井三池炭鉱の労働者やその家族らが住んでいた炭鉱社宅に関する聞き取り調査を行っている。1997年の閉山から四半世紀が過ぎ、かつて多くの人々でにぎわった炭鉱社宅の記憶の風化が進む中、研究会は証言や資料をデータベース化するなどし、6月にも社宅史資料集を刊行する計画だ。

郷土の”歴史”を発掘

 調査にあたっているのは、研究会の大原俊秀代表や炭鉱社宅の元住民、郷土史研究家ら約20人。大原さんは元大牟田市職員で、市立図書館に残る社宅関連資料の整理に携わったこともある。埋もれた資料を発掘し、社宅の暮らしや文化の記憶を後世に継承しようと、2021年9月に研究会を結成した。

 同会によると、同市や熊本県荒尾市には戦後、炭鉱やその関連企業で働く人たちのための社宅が計1万戸以上あり、家族も含めると約5万人が住んでいたという。しかし、1960年代のエネルギー政策の転換で次々と解体され、閉山を機に姿を消していった。

 大原さんも、三井三池製作所の銀水社宅で生まれ育った。現在、社宅は解体され、小学校の敷地になっているという。「社宅での暮らしは鮮明に記憶に残っている。(社宅の)診療所のこともはっきり覚えていて、玄関を入って右が内科・小児科だった」と振り返り、「その記憶も社宅がなくなった今、当時を知る人たちまでいなくなると消えてしまう」と危惧する。

早大と聞き取り調査


炭鉱社宅の元住民(手前)から聞き取りを行う嶋崎教授(右)と学生


 調査では、元住民と社宅跡を歩いて当時の生活状況を聞き取ったり、建設された年や居住者数などを企業に問い合わせたりしている。旧産炭地の研究を続けている早稲田大文学学術院の嶋崎尚子教授(社会学)も学生らと現地入りし、元住民らへの聞き取り調査に参加。アンケート形式のものを含め、現在、100人近くの証言が集まっているという。


 社宅史の資料集はデジタル版で自費出版し、100部を発行する予定。非売品で市立図書館などへ寄贈する。社宅に関する証言や寄稿文(原稿用紙1~10枚程度)については、「社宅の記憶編」として冊子にまとめ、協力者に贈ることにしている。

 大原さんは「当時の記憶を記した寄稿文や写真などを募集しており、関係者は連絡してほしい」と呼びかけている。

 問い合わせは大原さん(電話・ファクス0944-57-2476)へ。


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