日常生活の相棒に 北九州の学生がロボカップ世界大会で優勝

水が入ったペットボトルを認識し、アームで持ち上げるロボット

記事 INDEX

  • 自ら考えて行動する
  • 優れたAI技術を競う
  • ロボットと開く未来

 自ら考えて動く自律型ロボットの競技会「ロボカップ」。7月にオランダで行われた世界大会に北九州市の学生らのチームが出場し、優勝を飾りました。競技は、家庭やオフィスなどで人間と協力していかに働けるかを競う種目。凱旋(がいせん)した学生らは北九州市役所を表敬訪問し、栄冠を勝ち取ったロボットの性能を披露しました。

自ら考えて行動する

 「Take candy on the shelf and pass it to me (棚の上のキャンディーを取って私に渡してください)」

 家庭のリビングをイメージしたフィールドを再現した市役所集会室の一角。武内和久市長が英語で指示すると、ロボットは一瞬考えてから「I try to move to the shelf (棚に移動してみます)」と答え、机や椅子などの障害物をよけながら棚の方へ向かっていきました。


机や椅子などが置かれたリビングを模したフィールドで、ロボットに話しかける武内市長(左)

 ロボットを披露したのは、九州工業大の大学院や北九州市立大の学生ら約30人が所属するチーム「Hibikino-Musashi@Home」のメンバーです。

 「一見、頼まれたものを持ってくるだけの単純な動作ですが、ロボットが命令を正しく理解し、手順を考え、行動へ移すというのは、ハードルが高いことなんです」。同大学院生でチームの広報を担当する水谷彰伸さんが教えてくれました。


棚に置かれた食べ物や飲み物。右奥のキャンディーを選んで持ち帰るのが今回の”お題”


 市長の指示を受けたロボットは、飲み物や菓子箱などが並ぶ棚からキャンディーの箱を見つけ出しました。アームを伸ばして箱をつかみ、元の場所に戻ってきます。

 武内市長は「家に一台あるといいなと思いました。北九州市のものづくりの力は世界に通じるということを示してくれました」と、チームの快挙をたたえました。


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優れたAI技術を競う

 ロボカップは、ロボット工学の発展を目的に1997年、名古屋で第1回世界大会が開かれました。無線操縦ではなく、自分で考えて動くロボットが主役です。

 大会は五つの分野で行われます。サッカーの対戦、災害現場を想定したレスキューのほか、物流や倉庫管理を題材にしたインダストリアルなどの種目があります。その中で北九州のチームは、キッチンやリビングといった日常生活の空間で人の暮らしに役立てるかを競う「ロボカップ@ホームリーグ」に出場しました。


@ホームリーグの各チームはトヨタ自動車製の生活支援ロボット「HSR」を使用する

 @ホームリーグでは、自作したロボットで戦うのではなく、各チームが同じ性能の機体を使って勝負します。審査では、ロボットが命令通りに動くのはもちろん、人とのコミュニケーションが円滑に進むことも重視され、各チームが開発したAI(人工知能)などソフトウェアの優劣が勝敗を左右します。


ロボットの背面に取り付けられたノートパソコン。ここでAIが考えて、ロボットを動かす


 北九州のチームは、ロボットの映像や論文などの審査を通過してオランダへ。世界の強豪10チームがそろう中、「人を席へ案内する」「朝ごはんを準備する」「テーブルの食器を片付ける」といった課題に挑み、決勝に進みました。

ロボットと開く未来

 人間なら“あいまい”な指示で行動に移せることでも、ロボットの場合は、データと一つずつ照らし合わせながら判断し、AIが行動計画を導き出します。

 環境の変化に柔軟に対応するロボットを開発するのは難しく、少しでもデータと違う状況が生まれると、動かなくなる機体もあるそうです。水谷さんによると、世界大会では「真っ赤なイチゴを取ってくる」という課題が出ましたが、時間の経過で変色してしまったイチゴをロボットが認識できなかったチームもあったそうです。


ロボットが周囲の空間を把握し、手を振っている人を認識する

 AIを開発するには、ものの特徴を文章で入力して覚えさせる方法や、様々な角度から撮った3D画像をビッグデータとして蓄積させる方法などがあります。世界大会では、状況に応じてそれらを使い分けたことが勝利につながりました。

 水が入ったペットボトルは透けてしまうため画像で区別するのが難しく、形状が似ている炭酸飲料の缶はラベルの特徴をカメラで読み取るなどしたそうです。

 また、ロボットは手を振っている人などを選ぶ「人物認識」、周囲の障害物を把握しながら動く「ナビゲーション」などの機能も備え、これらをAIで連携させることにより、限られた競技時間でロボットを安定的に動かすことができたといいます。


「想定外の環境に、どうすればロボットが対応してくれるかチームで考えました」と話す水谷さん


 数年前まではロボットが人の言葉を聞き取ることにさえ苦労したそうですが、AIの技術進化はめざましく、水谷さんは「人と共存できるロボットを目指して活動を続けたい」と話します。



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