旅先でふるさと納税 久留米の会社が開発した「ふるさとズ」

九州自動車道の広川SAに導入された「ふるさとズ」のQRコードを読み取り、利用をPRする宇佐川社長

記事 INDEX

  • その場で返礼
  • 地域とつなぐ
  • じわり広がる

 訪れた地域の店舗や施設でふるさと納税を行い、その場で返礼品の商品やサービスを受け取る「店舗型ふるさと納税」がじわりと広がっている。自治体の返礼品を集めたポータルサイトから納税するのが一般的だが、店舗型は、応援したい地域に足を運んでもらい、その魅力に触れながら返礼品を選ぶことができる。システムを開発した福岡県久留米市の会社が目指したのは、地道でも地域貢献の輪が確実に広がっていくような仕組みだ。

その場で返礼

 2024年11月、同県広川町の九州自動車道下りの広川サービスエリア(SA)に、デザイン企画会社「サンカクキカク」が運用する「店舗型ふるさと納税『ふるさとズ』」が導入された。SAに置いているチラシやポスターのQRコードをスマートフォンで読み取り、専用サイトから町に寄付すると、寄付額に応じて3000円、5000円、1万円分の電子チケットが発行される。

 電子チケットは、SAの飲食店やショッピングコーナーで使える。対象商品は、八女茶や博多明太子などの福岡県共通返礼品、広川町産の果物など計約200種類に上る。町には利用者から「実際に返礼品を見て選べるのがいい」といった声が寄せられているという。


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地域とつなぐ

 同社は久留米市出身の宇佐川桂吾社長(40)が12年に創業し、自治体や企業、大学などのパンフレットやウェブサイトのデザイン制作などを手がけている。

 宇佐川社長は、ふるさと納税の返礼品の受注業務などに携わる中で、「古里やお世話になった自治体に納税することで地域振興に貢献する」という制度の趣旨から外れ、返礼品がネットショッピング感覚で選ばれている現状に疑問を持ったという。

 独自に自治体などへの聞き取りを進め、浮かび上がったのは、制度の様々な問題点だった。▽自治体間で返礼品の値引き競争が起きている▽自治体が返礼品の配送料を負担しなければならない▽寄付者に返礼品が届くまでに長い時間がかかる――。何より、返礼品の事業者と寄付者とのつながりが薄いと実感した。



 好きな地域や応援したい自治体を訪れた時に、現地の商店や飲食店などでふるさと納税ができれば――。寄付者がその場で返礼品の商品を受け取ったり、サービスを利用したりすることができるシステムを開発した。「納税を通して『ふるさと』と思える場所が増えたらきっと楽しい」。システム名の「ふるさとズ」にはそんな思いを込めた。


じわり広がる

 21年11月に初の導入自治体となった茨城県つくばみらい市は、市内のゴルフ場の利用料を返礼品にしたところ、5か月で約5000万円の寄付が集まった。受付でチラシのQRコードを読み込んで寄付すると、その場でプレーが楽しめる。

 自治体はQRコードを設置するだけで初期投資は少なく、配送料も不要だ。寄付者が自分の目で見て返礼品を選ぶため、品物を巡るトラブルになりにくいのもメリットという。

 導入自治体は全国に広がっている。24年12月末時点で、久留米市や広川町など福岡県内5市町のほか、京都府京丹波町、神奈川県茅ヶ崎市など全国約40自治体の約300店舗・施設に及ぶ。同じ店舗や施設で再び寄付するリピーターは2割強に上っている。

 返礼品は、キャンプ場の宿泊利用料や観光クルージング、イチゴ狩り、道の駅の商品券、オーダーメイドスーツの仕立て代など多岐にわたる。23年6月に導入した熊本県阿蘇市は、乗馬体験や阿蘇山を一望できる「草千里展望所」のガイド付きツアーなどを返礼品にした。市の担当者は「寄付者が来てくれれば、地域を知ってもらえる。ふるさと納税に関われる事業者の幅も広がった」と話す。


「ふるさとズ」のトップ画面


 「モノだけでなく、様々な体験を提供できるのが強み」と宇佐川社長。「各地のファンになる人を増やし、地方の活性化を後押ししたい」と意気込んでいる。


 「ふるさとズ」からのふるさと納税は、ウェブサイトでも受け付けている。


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