飲酒運転撲滅を願う「命」のモニュメントが完成 糸島市に

 飲酒運転撲滅を願うモニュメントが福岡県糸島市に設置された。モデルは1999年に飲酒運転の車に衝突されて亡くなった女子大生。制作した福岡市中央区の彫刻家、片山博詞さん(60)は、重いテーマに苦悩しながらも、女子大生の父親らに直接話を聞き、「命の尊さ」を主題に作品を仕上げた。


完成したモニュメントと大庭茂弥さん(左)ら


犠牲になった娘への思い


 「モニュメントが永く生き、命の大切さを訴え続ける役割を果たしてほしい」。6月22日、糸島市泊の県道交差点で披露された女子大生の銅像(高さ1.2メートル)を見つめ、片山さんは語った。

 同市出身で、鳥取大3年だった大庭三弥子さん(当時21歳)は99年12月、鳥取県内で車を運転中、飲酒運転の対向車に衝突されて亡くなった。父・茂弥さん(77)は2015年から、同じような遺族の励みになればとの思いで自宅近くの畑にヒマワリを植えてきた。


大庭三弥子さん (1999年撮影、遺族提供)


 モニュメントの設置は、畑を通じて茂弥さんと交流のあった不動産賃貸業「セトル」(福岡県直方市)の一尾泰嗣社長(74)と、妻の弘子副社長(67)が提案。片山さんは以前、同社のホテルに置く作品を手がけたことがあり、21年秋、一尾夫婦から制作を依頼された。


 片山さんは今年3月まで福岡市立中学校の美術教諭を務める傍ら、彫刻家としても活動。JR直方駅前の「大関魁皇像」など200点以上を手がけてきた。同市では06年に市職員の飲酒運転による3児死亡事故が起きており、「市立学校に勤める教員として、できることをしたい」と引き受けた。ただ「テーマがあまりに重く」、一晩で決まることもある作品のイメージがなかなか浮かばなかった。

いのちは輝き、つながる

 依頼から数か月後、茂弥さんと、11年に飲酒運転の事故で高校生の長男を失った福岡市東区の山本美也子さん(55)と初めて会った。2人とも「命の大切さが心にあれば、飲酒運転なんてできないだろう」と語り、飲酒運転撲滅を通じて命の尊さを伝えたいとの思いで一致していた。心を動かされたのは、茂弥さんの言葉だった。「『お父さん頑張りよるね』って天から声を掛けられている気がする」。三弥子さんは亡くなったが、今も茂弥さんと確かにつながっていると感じた。

 「いのちは輝き、つながる」をテーマに据え、本格的に制作を開始。タンポポの綿毛に息を吹きかける三弥子さんなど生前の写真を基にイメージを膨らませた。銅像はTシャツにジーパンという活動的な姿にし、右手を差し出すポーズには、見る人との対話が生まれてほしいとの思いを込めた。そばのシバ犬の像は、山本さんの息子がかわいがっていた飼い犬をモデルにした。


お披露目されたモニュメントを囲んで笑顔を見せる(右から)片山さん、山本さん、大庭さん


 最後まで、「本人や遺族の悲痛を表現しなくていいのか」と悩んだ。「(加害者を)責めずに先に進まないと」と話す茂弥さんに、「自分は同じように言えるだろうか」と自問しながら、「遺族らの心情を分かることはないだろう。それでも近づきたいという気持ちは大事にしたい」と作品に向き合った。


 依頼から約2年半かけて完成させたが、「これで良かったのか」と自信を持てないまま迎えた22日の式典。茂弥さんの「像を見て衝撃が走った。感謝している」との言葉に、「肩の荷が下りた。ほっとした」と穏やかな表情を浮かべていた。


advertisement

この記事をシェアする