記事 INDEX
- 最近耳にする「DX」って?
- 福岡市が「DX戦略課」新設
- 「福岡を日本の先進事例に!」
福岡市は、行政手続きのデジタル化を進めています。業務効率化でうまれるマンパワーを福祉などの分野に振り向ける狙いがあります。この「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に取り組む「DX戦略課」を新設し、4人の「DXデザイナー」が公募で決まりました。DXで福岡市がどう変わるのでしょうか? 関係者に聞きました。
DXで福岡はどうなるの?
福岡市でなにが始まり、どのようなことが起こるのでしょうか。まずは、福岡市総務企画局の企画調整部に昨年11月に設けられたDX戦略課を訪ね、橋本康範課長に素朴な疑問をぶつけてみました。
――DXを日本語で説明すると?
「デジタルの力を利用し、人々の暮らしをより良く変化させていく」でしょうか。
――福岡市の取り組みは全国でも早いほうだと感じます。
福岡市は2020年9月にハンコレスを実現しましたが、これはゴールではありません。ハンコレス、ペーパーレスを経て、目指す先は、行政手続きをより簡単にすることです。早い段階からオンラインの取り組みは始まっていたのですが、新型コロナウイルスの影響で加速したように思います。
――福岡のDXでは、どんなことが進んでいますか?
取りかかれるところから順次スタートしています。大きな失敗はできませんが、できたものから世に出し、トライ・アンド・エラーでサービスの質を高めていきます。
市民に向けては、申請の多い手続きからオンライン化を進めて、「便利になったなあ」「区役所に行かなくてすむようになった!」と実感してもらえるように準備を進めています。
新型コロナの感染拡大を防ぐ観点からも、区役所の来訪者が減り密を避けて手続きができるのは市民にも職員にも良いことです。受け入れられていくと思っています。
――DXデザイナー4人が1月に決まりましたね。
最終的に45名の応募をいただきました。素晴らしい方ばかりで選ぶのは大変でしたが、中でもデジタルに関しての評価が高く適任な4人に委嘱しました。DXを進めていくのにあたり、4人に都度アドバイスをもらいながらバージョンアップを図ります。
公募で選ばれた福岡市のDXデザイナー
西村 博之 さん 有限会社未来検索ブラジル取締役
東 宏一 さん 内閣官房 IT 総合戦略室政府 CIO 補佐官
肥後 彰秀 さん 株式会社 TRUSTDOCK 取締役
吉岡 泰之 さん 株式会社 gaz 代表取締役 CEO
フランスから参加しているひろゆき(西村博之)さんはインターネットサービスの先駆者です。国の中枢にいる東さんは、国の動向やトレンドのパイプ役として期待できます。肥後さんは本人確認の認証技術とシステム全般に詳しい方です。
吉岡さんは福岡代表でもあり、特にUI(ユーザーインターフェース=ユーザーとサービスなどの接点)、UX(ユーザーエクスペリエンス=サービスなどからユーザーが得られる体験)に強い。結果的に大変バランスの良い4名となりました。
――今後の進め方は?
デザイナーには、良い意味で既存のやり方を崩すような提案を期待しています。それらに対し、市役所がどれだけ応えられるかというところも重要なので、私たちがそれぞれの所管部署とつなぐ役割を果たしていきます。
市の各部署に対し、いきなり変化を強要するのではなく、理解を得ながら進めていくことが大切だと思っています。ただ、悠長なことも言っていられない時代なので、スピード感を持って臨みたいと思っています。
「先陣を切って進めたい」
橋本課長が「福岡代表!」と期待を寄せるDXデザイナー、gaz代表取締役CEOの吉岡泰之さんにも話を聞きました。
株式会社gaz
ウェブサイトのデザイン、UX・UIの設計、グラフィック、イラストの企画・制作やデザインコンサルティングなど、デザイン全般を提供している。福岡市中央区のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」に本社を置く。
――DXデザイナーに応募したきっかけを教えてください。
創業当初から、公共セクターのUIに関わりたいと考えていました。コロナの影響や福岡のDXの動きが重なり、今回の機会を得ました。UIデザイナーとしてなら、お力添えできるのではないかと思って応募させていただきました。
――行政手続きに何か課題を感じていたのですか?
プロジェクトにトライして、どんなことができるか考えてみたかったので、なにか具体的に課題を感じていたわけではありません。まずは、仕組みがどうなっているのか知りたいと思いました。
――自身の強みをどう生かせると考えていますか?
全国的にみても、UIの専門家はまだまだ少なく、自分ならそこの知見を提供できると思いました。今回選ばれたほかの3人の方は、システムまわりや全体の進め方、経営部分での強みがあるので、僕に求められるのは人とシステムの接点である表層のデザインだと認識しています。
――現在は、どんなことをしていますか?
毎週、全体で進捗確認をしながら、意見を交わしています。今後リリースするシステムのインターフェース部分なども、アドバイスをしながら、実際に手を動かして画面を設計することもあります。
――デザインと一口に言っても、あらゆる層の利用が考えられます。難しさを感じているところはありますか?
一般市民向けや企業向けのものは今まで何度も関わってきた部分なので、使い分けを意識しつつ進めていけると思っています。
高齢者向けのインターフェースというのは全国的にもあまり事例がなく、非常に難易度が高いです。日本は高齢先進国で、高齢者の割合も高いので丁寧にカバーしていくことが重要だと思っています。
――DXデザイナーとして携わって感じるところは?
外から見ていて、「ここは、こうすればいいじゃん」と思うようなことも、法的な要因や制約が意外とたくさんあります。行政の仕組みとして、動かせないことは理解をしつつ、どうするべきかをすり合わせていけば、進めていけると考えています。
あとは考え方です。行政の立場からして、100人の市民がいたら100人とも使えるシステムが求められたと思うんです。今回は、そこをうまく調整しながら98%ほどでリリースして、あとは様子をみながらチューニングできれば、スピード感やシステム面も、だいぶ変わってくるのかなと思います。
――DXが進んだ福岡をどのように描いていますか?
福岡の取り組みは、日本の先進事例になり得ると思います。「福岡がやっているから」と、取り組み始める自治体も出てくるのでは。ここ2~3年で、先陣を切ってDXを推し進めていきたいですね。
さらに福岡の利点を生かしつつ、「行政としてそこまで行っちゃうんだ!」という、もう一歩先の段階までいくと、楽しい街になるのかなと。今後5年くらいでそれらを実現できると、すごく良い世の中になりそうだと思いますね。
福岡のDXに期待
「デジタル化」と聞くと、人手を離れ、自動的に状況が切り替わっていくようなイメージが浮かびますが、今回の取材で、担当している人々の情熱や、きめ細かさが物事を動かしているのだと感じました。今後も福岡のDXに注目していきたいです。