辛子明太子マニア 田口めんたいこさんが福岡に移住

記事 INDEX

  • 東京生まれ、東京育ち
  • 辛子明太子が好きすぎて福岡へ
  • 実はメーカーごとに味に違い

 辛子明太子に魅了されて本場・福岡市に移住した人がいる。「田口めんたいこ」。昨年12月、東京から引っ越してきたばかりだという。福岡に移り住むほど辛子明太子にはまった理由とは。福岡県民の記者もうなる、田口さんの"明太子愛"を聞きました。


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明太子に救われた会社員時代


いろいろなジャンルのマニアが集まるイベントに参加した田口めんたいこさん(左)(本人提供)

 東京生まれ、東京育ち。これまで東京でしか暮らしたことがなかったという。そんな田口さんがどうして明太子にはまったのか。

 転機は都内で事務職として働いていた会社員時代。明太子のかぶり物をした今の姿からは想像できないが、「会社と自宅の往復。人生このままで良いのだろうかという迷いがありました」と、鬱屈(うっくつ)した毎日を過ごしていたという。

 その頃、友人に勧められて始めたのが「食」と「インスタ」。もともとの魚卵好きが高じて、明太子に特化した料理や商品をインスタに投稿し始めた。

 それまでなんとなく自分に自信が持てなかったという田口さん。明太子好きをカミングアウトして自らの殻を打ち破ったことで少しずつ仲間が増え、仕事以外で社会とつながるきっかけが生まれたという。

やりたいことを求め福岡へ

 明太子への愛はしだいに加速。「自分のやりたいことに挑戦したい」。2018年には勤めていた会社を辞め、福岡へ明太子づくしの旅に出た。明太子メーカーからは予期しなかった大歓迎を受け、工場見学までさせてくれた。


明太子づくりワークショップに参加した田口さん(本人提供)


 「福岡で暮らしてみてもいいかも」。福岡県民の人情に触れて、田口さんの福岡移住計画が少しずつ現実味を帯びていった。


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福岡県民も知らない明太子事情

 辛子明太子が誕生したのは戦後。韓国・釜山から引き揚げてきた「ふくや」創業者の故・川原俊夫さんが、釜山で食べた明太子の味を再現しようと試行錯誤して完成させた。日本人好みの味を研究し、辛子明太子は博多土産として評判に。川原さんが製造法を惜しまず公開したことで、福岡県内には明太子メーカーが増え、現在の「博多食文化の顔」としての地位を確立した。


市場に開いた店に立つ川原さん。右下の瓶に辛子明太子を入れて売っていた(提供:ふくや)

 川原さんの一代記は、漫才師・博多華丸さんが演じて、「めんたいぴりり」シリーズとして映画やテレビドラマで人気を博した。

 メーカーや小売りなどでつくる業界団体「全国辛子めんたいこ食品公正取引協議会」(福岡市)によると、現在、所属する明太子メーカーは86団体で、9割が福岡県内に本社を置いている。


辛子明太子の製造ライン(提供:ふくや)


 北九州市出身の記者(東京暮らし未経験)は「明太子くらい東京でも普通に食べられるでしょ」と思っていた。しかし、田口さんに聞くと、都内で暮らしていたときはネット通販に頼っていたという。

 協議会によると、都内に販売店を持つのは「ふくや」「かば田」「福さ屋」などの有名どころのみ。ひいきの明太子がある福岡県民なら、上京の際は明太子ロスを覚悟する必要もありそうだ。


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メーカーごとの味の違い、分かりますか?

 メーカーごとに味の違いはあるのだろうか。田口さんは力説する。「メーカーによって違います。辛さはもちろん、出汁に違いがあります。日本酒の代わりにワインを使うメーカーもあれば、柚子などを加えるところもありますね。それぞれが自社の味を追求していて、意識して食べたらすぐに分かりますよ」

 本当だろうか。疑いつつも、明太子の味の違いを語るくらいは福岡県民のたしなみだろうと思い、記者も5社の明太子を購入して食べ比べてみた。田口さんの言うとおり、味付けはもちろん、辛さ、色、使用しているタラコの粒の大きさなども異なる。

 「どこの明太子が一番おいしいの?」。福岡県民なら誰しも一度は出くわしたことがあるだろう質問。記者も含め、「どこも一緒だよ」などと答える福岡県民のなんと多いことか。実際に食べ比べてみて、ボーッと明太子を食していた自分を恥じた。


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田口めんたいこの野望


明太子を食すイベントで(本人提供)

 昨年12月15日、田口さんはついに福岡市民になった。

 「東京の人間は受け入れてもらえないんじゃないかと不安でしたが、福岡の人たちの温かさを感じています」。街の規模感もほどよく、新たな仲間もできた。初めて経験する東京以外での暮らしだが、孤独は感じていない。

 「まさか移住するとは思っていませんでしたが、福岡でしか得られない情報をたくさん吸収して、明太子の魅力を全国へ発信していきたいです」。明太子の写真を貼った手作りのノートを見せながらそう語る。

 田口さんの調べでは、自家製明太子を提供している飲食店なども含めると、全国には200ほどの製造元があるという。「コロナ禍が収束したら明太子メーカーを集めたイベントを開きたいです。明太子を食べて、各社のこだわりを知れば、明太子の魅力を再発見してもらえるはず」。田口さんの福岡明太子生活は幕を開けたばかりだ。


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