「福祉じゃない」 難聴者が一線で働く福岡市・藤崎のりんご飴店「あっぷりてぃ」

納得の味に仕上がったりんご飴を手にする梶本さん

記事 INDEX

  • 好調な滑り出し
  • 「おいしい」を追求
  • 一緒に「働く」

 福岡市早良区藤崎に今春オープンしたりんご飴(あめ)店「あっぷりてぃ」。店で働く難聴者と来店客の交流が生まれ、味もおいしいと評判です。運営会社の社長は、難聴者のサポートとおいしい飴作りの両輪で、地域に愛される店を目指しています。

(写真:大野博昭)

好調な滑り出し

 「コロナ禍で祭りが減り、懐かしさから人気なのかもしれません」と話すのは、運営会社社長の梶本真佑さん(40)です。


 味は定番のプレーン(500円)、バターミルク(600円)、カカオ(同)の3種類。パリッとした飴と、シャリッとしたりんごの相性もよく、開業した4月は目標を4割上回る3500個を販売し、好調なスタートを切りました。


プレーン(左)とバターミルク

 あっぷりてぃのスタッフは8人で、難聴者と健常者がそれぞれ4人。手話や指さし、筆談を交えながら接客します。5月中旬に2度目の来店をした耳の不自由な40歳代女性は「ほっぺが落ちそうなくらいおいしいし、分かりやすい表示や手話による接客で利用しやすい」と笑顔を見せました。


手話を交えて来店客とコミュニケーション。注文窓口には分かりやすい料金表も

 梶本さんは妻(43)と長女(11)が難聴で、難聴の子どもが放課後などに利用できる障害児通所施設を市内3か所に開設しています。あっぷりてぃは「施設に通う子どもたちが将来働くイメージを持てるように何かできないだろうか」という思いと、りんご飴との偶然の出会いから誕生しました。


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「おいしい」を追求

 梶本さんがりんご飴に目覚めたのは昨年5月。知人が東京から取り寄せたものを口にした瞬間、「おいしい!」と驚くと同時に「でも、これって自分で作れるのでは?」と思ったのがきっかけです。


毎日のように試作を続け、おいしさを追求した

 早速挑戦しますが、飴は固まらず、味も散々で、「見事に失敗しました」。ラーメン店を営み、麺も自ら手がけていた梶本さん。悔しさをバネに、それから毎日のように自宅や仕事場でりんご飴を作り続けました。

 従業員や長女、長男(3)にも味見を頼み、妻には「子どもたちが虫歯になるからやめて」と言われるほどだったそうです。


光沢が美しいりんご飴

 砂糖と水の配合を入念に調整し、専門の卸売業者を探して最適なりんごを選び抜くなど、課題を一つずつクリア。3か月ほどたつと自他共に「おいしい」と認める味が完成しました。

 自慢のりんご飴で新しい取り組みを――。福岡市東区で昨年9月から、難聴者が接客するりんご飴店を月1回ほどのペースで出したところ、想定以上の売り上げに。百貨店の催事への出店も好評で、4月の常設店オープンにつながりました。

一緒に「働く」

 あっぷりてぃは、行政のサポートを受ける就労支援施設ではありません。「福祉サービスにはしたくなかったんです」と梶本さん。すべてのスタッフに「戦力として、店に積極的に関わってほしい」という思いがあります。


「手話で注文してみませんか?」

 店づくりの段階から、難聴のスタッフにどんどん意見を出してもらいました。指さしがしやすいメニュー表のデザイン、会議用のディスプレーなどを設置し、一緒に働きやすい環境を整えました。

 アルバイトで働く市内の大学生、横塚美有さん(20)は「聞こえない人同士で働ける環境は貴重です。事前にみんなで意見を出し合ったから、今の働きやすさがあります」と言います。「難聴者が働く職場はキッチンなど裏方が多いですが、ここは接客。お客さんが新しい手話を覚えてくれたりして楽しいです」と、筆談を交えながら、取材に答えてくれました。


「大変さもあるけれど毎日楽しい」と横塚さん(撮影:大脇知子)

 店のすぐ前には公園があり、小学生が数人で小銭を出し合って、やって来ることもあるそうです。梶本さんは「覚えたての手話を使って注文している場面を見かけると、うれしさがこみ上げます」と話します。


りんご飴でチャレンジが広がる

 確かな手応えを得て、2号店、3号店の構想も浮かんでいます。「幅広い子育て支援にもチャレンジしたい」。りんご飴の輝きに負けず、瞳の奥にきらりと光る夢の実現に向け、挑戦はこれからも続きます。



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