和と洋が出会う器をめざして 「小石原焼」の職人が続ける模索と挑戦
記事 INDEX
- 約350年の歴史を刻む
- 全工程を一人の職人で
- 同じ繰り返しでいいの?
- 日常の営みを世界が評価
- 和と洋の出会いを求めて
福岡県東峰村で作られる国指定伝統的工芸品・小石原焼(こいしわらやき)。規則的に点が並ぶ「飛び鉋(かんな)」をはじめ、特徴あるデザインは全国にファンが多い。一方で、生活様式の変化から民芸品に関心を示さない層も増えている。「伝統はどうあるべきか」。答えを求めて海を渡り、村に戻った今も模索し続ける職人がいる。
約350年の歴史を刻む
小石原焼は福岡県東部の小石原地区周辺で作られている。一帯には約40の窯元があり、それぞれ個性的な作風を守っている。
1682年、伊万里(佐賀県)にならって焼き物を作り始めたのが産地の起源とされる。陶器に適した土があり、窯で用いる薪の原料が豊富だったことから、山あいの地で「焼き物の里」として歴史を刻んできた。
小石原焼の最大の特徴は、器をろくろで回しながら鋼の刃先で表面を削るようにつける「飛び鉋」、刷毛(はけ)を押し当てて描く「刷毛目」などの柄。温かみがあり、日常使いの民陶として人気が高い。
例年5月と10月に開催される「民陶むら祭」は、割引販売される日常雑器や新作を求めて多くの人が村にやって来る。
2017年7月に発生した九州北部豪雨では、一帯も土砂崩れや浸水の被害を受け、村のまとめによると25の窯元が被災した。それでも、ボランティアの力を借りて、土砂を工房からかき出したり、共同窯を整備したりするなどし、3か月後の10月には民陶むら祭を開催。小石原焼のファンや復興を応援する人々でにぎわった。
全工程を一人の職人で
小石原焼の原料は地区で採取される赤土。鉄分が多く、素朴な質感がうまれるという。土を手ごねして空気を抜く作業にも熟練の技が光る。「菊練り」の技法は、腕の上下運動だけで土を丸め、花弁のような模様がついていく。
土を寝かせたあと、ろくろで成形。それを乾燥させ、削って形を整えると、「化粧土」と呼ばれる液状の白い粘土をかける。
再び乾燥させ、ろくろで回しながら鉋を当てると削った跡が規則正しく並び、小石原焼を象徴する「飛び鉋」の模様が浮かび上がる。
コーティングと色出しのために釉薬を塗り、さらに乾燥させてから窯入れし、1260度の高温で焼く。薪を燃やす「登り窯」が伝統だが、時代は移ろい、今はガス窯が主流になっているそうだ。
制作の途中で何度も乾燥を繰り返すため、天候には日々気をもむ。各工程を分業で進める産地もあるが、小石原ではデザインから完成までを1人の職人で行う。全ての工程を終えるのに1か月程度はかかるという。