次代へ技能をつなぐ 博多織と博多人形の人材養成機関から伝統工芸士が誕生!

 福岡が誇る伝統的工芸品「博多織」と「博多人形」。制作に携わる技術者の中でも、とくに高度な技術・技法をもつ「伝統工芸士」が新たに誕生し、博多織から4人、博多人形から9人の計13人が認定を受けました。このうち6人は、地場産業の技能伝承などを目的に開設された人材養成機関の卒業生・修了生です。伝統工芸界と行政などによる取り組みの成果に、関係者は手応えを感じているようです。


advertisement

次代を担う人材を育成

 需要低迷や技術者の高齢化など伝統工芸が直面する課題に対応し、技能を伝えていこうと、生産者でつくる組合や福岡市は人材養成に力を入れてきました。2001年に「博多人形師体験講座(現・博多人形師育成塾)」、2006年には「博多織デベロップメントカレッジ」を設け、初心者も伝統工芸の世界に踏み出せる環境を整えました。

 今回、伝統工芸士に認定された岡部由紀子さん(那珂川市)は博多織デベロップメントカレッジ、緒方恵子さん(飯塚市)は博多人形師体験講座で、それぞれ技術を学びました。博多織デベロップメントカレッジの卒業生から伝統工芸士が誕生したのは初めてとのことです。2人に話を聞きました。


advertisement

「一生続けられる仕事を」 岡部由紀子さん


自宅に作業部屋を置く岡部さん

 岡部由紀子さんは、自宅の一部を作業部屋にして、個人で活動しています。
 子育てが一段落し、仕事を探していたところ、博多織デベロップメントカレッジの生徒募集を知ったそうです。手芸は好きでしたが、「伝統工芸品」となるとハードルが高く感じられるもの。当時40歳の岡部さんがそれでも入学を決めたのは、「女性が一生続けられる仕事に就きたかったから」と話します。


手織機で作業を進める岡部さん

 カレッジを卒業して14年、ずっと博多織と向き合ってきました。「紋彫り」と呼ばれる図案起こしと、糸の染色以外はすべて自宅で行います。
 博多織は、自動織機を使うのが一般的ですが、岡部さんは「手織機」で作業を進めていきます。時間はかかりますが、柄を見ながら糸を打ち込む力加減を変えられるので、機械では出せない柔らかな風合いに仕上がるといいます。


岡部さんの作品「花萌葱(はなもえぎ)」(手前)と「朧(おぼろ)」

 岡部さんは今回の認定を「一つの通過点」と受け止めています。「ここまで来れたなと思う一方で、作業中はいまだにドキドキします。今までと変わらず一つひとつ丁寧に仕事と向き合っていきたい」と笑顔を見せました。


advertisement

「魅力は道の長さ」 緒方恵子さん


伝統工芸士に認定された緒方さん(はかた伝統工芸館のサイトより)


 緒方恵子さんは小学校の教諭から転身しました。伝統工芸は家族で後継者を育てているイメージがあり、職人の道に関心はあったものの、「何から始めてよいのか分からなかった」と振り返ります。
 そんな時、博多人形師体験講座のことを知り、1期生として飛び込みました。現役の博多人形師から直接指導を受け、職人に弟子入りしてキャリアを積んできました。現在は独立し、数々の作品を発表しています。


2006年の作品「華」(はかた伝統工芸館のサイトより)

 人形づくりの魅力を「道の長さ」と表現する緒方さん。「ずっと先を行く先輩方の背中を見ながら、工夫を重ね、作品づくりに取り組むのが楽しい」と話します。
 粘土を練り上げ、精巧な原型を作ることから始まる博多人形。いくつもの工程を手作業で行い、完成まで最低でも1か月を要します。緒方さんの作品は、柔らかい表情と色づかいに定評があります。


2011年の「桜舞う」。柔らかな表情と色づかいに定評(はかた伝統工芸館のサイトより)

 伝統工芸士として認められ、制作に一段と熱が入るそうです。「より頑張らなきゃという気持ち。作品を待つ人たちに喜んでもらいたい」と声を弾ませました。


advertisement

福岡市の担当者も「心強い」

 福岡市によると、10~30代の若い世代やセカンドキャリアを目指す人を中心に、伝統工芸の世界に多彩な人材が集まるようになってきたそうです。技術を習得したあと、活躍する場も広がりを見せているといいます。


伝統工芸士の誕生を喜ぶ小山さん


 福岡市経済観光文化局で地域産業支援課長を務める小山隆さんは、人材養成機関から伝統工芸士が誕生していくのを喜んでいます。「着実に後継者が生まれ、心強く感じています。継続して業界を盛り上げていきたい」と話していました。


advertisement

この記事をシェアする