名刺 フロム インドネシア 「ましまし」できない日本の印刷業界は物足りない

林さん(右)とフェルディさん(WeWork大名で)

記事 INDEX

  • アナログな『モノ』に希少価値
  • インドネシアで印刷され、わざわざ日本へ
  • 日本は暮らしやすいリーズナブルな国

 中小零細企業であっても海外と協業するべき――。福岡市中央区にある気鋭のデザイン会社「Thinka Studio(シンカスタジオ)」が8月、名刺やパンフレットなど紙製品の製作事業でインドネシアの印刷会社と連携することを発表した。印刷事業者は国内にも数多く存在するのに、なぜインドネシア企業なのか。シンカスタジオの林航平代表に理由を聞いた。


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アナログな『モノ』に希少価値

 シンカスタジオはウェブデザインを中心に、印刷物などのグラフィックデザインも手がけている。林さんは"デジタル当たり前時代"に問題提起する。

 「自社のウェブサイトはあって当然と見られてますよね。となると、サイト単体で競合他社と差別化するのは困難で、自社ブランディングに苦労している企業が増えています。デジタル当たり前時代だからこそ、紙といったアナログな『モノ』は逆に希少価値が高く、モノからファン獲得につなげる手法が見直されています」


デジタル中心のデザイン市場について語る林さん

 情報発信の主流がデジタルに置き換わった今、企業ブランディングの主戦場は、消費者の記憶に残るモノだと主張する。

 「ウェブサイトはどこも横並びなんだから、お金をかけるべきはモノ」。名刺やパンフレット、販促アイテムなど、消費者や取引先が何気なく手に取るモノにファン開拓のヒントがあるという。しかし、デザインをかたちにする過程において、林さんを満足させる製品を納入する印刷会社が見つからなかったという。

 「日本の印刷業界は物足りない。どこの印刷会社も提示するサンプルが代わり映えしません。品質よりコストばかりを売りにしていて、一生懸命デザインした製品も理想にほど遠くてがっかりすることが多いです」

 こうも嘆く。「どれだけ安く仕上げるかのサービスばかりで、高付加価値で『ましまし』な商品づくりになるとサービスやアイデアに乏しいんです」

インドネシアで印刷され、わざわざ日本へ


取材はインドネシアにいるキューブ共同経営者のチャンドラさんともオンラインでつないだ

 インドネシアとのつながりは突然だった。福岡市内のシェアオフィスで開かれたイベントに講師として参加したとき、一人の男性が近づいてきた。「フェルディ・トリハディといいます。九州大学の大学院生です」。流暢な日本語で話しかけてきた。

 聞くと、母国インドネシアで印刷会社「KYUB(キューブ)プリンティング」を創業した若き経営者で、九州大学大学院に留学してデザインビジネスについて学んでいるという。

 「インスタでキューブの製品を見せてもらいました。紙の質感やアイデアの豊富さ、日本では見たことない製品ばかりで、とりこになりました」。林さんが抱えていたモヤモヤも解決の糸口が見えた。フェルディさんはビザの関係で日本での仕事が出来ないため、林さんはインドネシアにいる共同創業者と連携話を進めた。

 「キューブは印刷や加工の高い要求に応えてくれます。さらにインドネシアで使われている紙は質感や規格が日本と異なり、創作意欲を刺激されます。『ましまし』にしたとしても価格も許容内です」。名刺ひとつ取っても、林さんがデザインした図案はインドネシアで印刷され、わざわざ船便で日本にやってくる。

 「インドネシアでつくった名刺というストーリーも付加価値ですよね」


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日本は暮らしやすいリーズナブルな国

 現在は大学院生のフェルディさんだが、修了後は福岡市内にキューブの本社を置き、グローバルビジネスを展開するつもりだ。

 「インドネシア国内だけでなく、オーストラリアやシンガポールからの注文もあります」。キューブはすでに国境を越えて事業を展開している。ならば、拠点は日本より成長著しいアジアの都市が良さそうだが。


大学院修了後について語るフェルディさん

 フェルディさんは笑顔で答える。「面白い質問ですね。私は生活と仕事を分けたいと思っていて、いい仕事をするためには、いい生活をする必要があります。生活環境は日本、特に福岡が最高です。空港が近くて国内外へのアクセスに便利です。自然があって食べ物もおいしい。何より物価が安い。シンガポールで暮らした経験がありますが、家賃をはじめ物価がとても高かったです」。フェルディさんの目に映る日本は暮らしやすいリーズナブルな国だ。

 中小零細であっても海外と協業するべきか。林さんの答えは「イエス」だ。

 「キューブとの協業は、日本で凝り固まった私の常識を壊してくれました。だからこそ、キューブにはインドネシアらしくいてほしい。カルチャーの違いが刺激になるし、なにより楽しい。互いにリスペクトしてシェアし合うことで、よりいいモノが生み出せると信じています」


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