菓子作りから餃子の世界へ 元パティシエがたどりついた「僕にしかできないもの」

記事 INDEX

  • 35歳までに独立したい!
  • ずっと変わらず愛される味
  • 心の底から「ありがとう」

 元パティシエが作る餃子(ギョーザ)が話題の店が福岡市博多区にあります。菓子のコンテストでの受賞歴もある種生(たねお)慎一郎さん(37)が営む「博多餃子工房 たね屋」。約15年携わった菓子の業界から、どうして餃子の世界に転じたのか――。その経緯と餃子への思いを種生さんに聞きました。


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35歳までに独立したい!

 「たね屋」は自動車販売店や工場などが立ち並ぶ博多区東那珂の県道そばにあります。カフェのようなおしゃれな店内では、豚足コラーゲンが入った餃子を中心に、定食やスイーツを提供。テイクアウトやインターネット通販も行っています。 


看板メニューの焼き餃子(税込み450円)

 福岡県行橋市出身の種生さんは、小さい頃から料理が好きで、自宅に遊びに来た友達に料理を振る舞うほどだったといいます。中学生になると、叔父のフランス料理店で手伝いを始め、大阪の製菓専門学校などを経て、20歳で福岡市の人気菓子店「チョコレートショップ」に入りました。

 「35歳までには独立したい」。種生さんは常々そう考えていたといいます。一つの職場に身を置くのは3年までと決め、菓子と向き合う様々な現場を経験しました。

 チョコレートショップでは、チョコ作りを学んで2年ほどで退職。次はケーキ店でムースやショートケーキ、その次は焼き菓子と業界を渡り歩きました。ケーキ店で働いていた際には福岡県のコンテストで賞を受けました。


パティシエ時代の種生さん(右)と同僚(提供:たね屋)

 20歳代の後半には、結婚式場などを運営する会社に入り、兵庫県姫路市に配属されました。「100人分を一気に作るキッチンのスピード感、シェフの厳しさについていくのが大変で、初めて壁にぶち当たりました」と振り返ります。

 それでも必死に食らいつき、大きなケーキ作りやデザートを皿に美しく盛る技法を習得し、30歳代前半で帰福。福岡市内の商業施設にあるカフェで店長を務めました。


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ずっと変わらず愛される味

 約15年の経験で、自分なりに満足のいくものを作れるようになってきました。一方で、35歳という年齢が近づくにつれ、もやもやした思いが湧いてきたといいます。

 タピオカ、バスクチーズケーキ、マリトッツォ――。パティシエは、常に時代の最先端を求められます。流行が現れては消えていく風潮に疲れを感じるようになっていました。「この先50歳、60歳になって、はやりを求められ続けるのはきついな」。パティシエの世界から離れることを決めました。


これまでの歩みを振り返る種生さん

 そんな時、ふと思い出した料理がありました。兵庫県で働き始めた頃に加古川市の中華料理店で食べた餃子です。そこは、当時の自分を支えてくれた先輩料理人の両親が切り盛りする店でした。あんや皮だけでなく、たれが独特で「食べたことのないおいしさ」だったといいます。

 「餃子は味も形もずっと変わっていない。長く続けていけそうだ」。先輩の父親に頼み込み、2か月ほど住み込んで餃子やたれのレシピを学びました。


餃子は一つ一つ丁寧に手包みで

 福岡に戻ると、試作しては知人らに食べてもらい、感想を聞いて試行錯誤を重ねました。「たね屋」の味の決め手となった豚足コラーゲンを入れるアイデアは、アルバイトをしていたステーキ店のシェフの助言をきっかけに生まれたものです。


水分が飛んで焦げ目がついたら食べ時

 こうして3年ほど前、餃子とパティシエをかけた「ギョザシエ」を名乗って餃子の販売を開始。当初は、福岡市南区のパン店「ロンブラージュビガレ大楠店」で売る「間借り餃子」とネット通販だけでしたが、昨年1月に35歳で現在の店を開きました。


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心の底から「ありがとう」

 「また食べたいと思ってもらえる余韻を残す味」を目指したという餃子は、野菜の甘みと、ごはんが欲しくなる旨(うま)みがたっぷり。焼き肉のたれと酢で作る特製の餃子たれは教わったレシピを変えずに守っています。


カフェのような雰囲気の店内

 餃子のメニューは「プレーン」のほかに、シャンパンや白ワインによくあう「チーズ&バジル」、ポン酢でうまさが引き立つ「桜エビ」を販売。また、夏限定の「とうもろこし」もあります。餃子の皮を使うフロランタン「ギョザランタン」はお土産として人気といいます。


パティシエの経験を生かしたギョザランタン(税込み350円)

 餃子のおいしさとコンセプトが話題を呼び、開店から1年半ほどで常連客も増えました。種生さんは「自分の餃子のためにお客さんが来てくれる。これまでの職場では社交辞令のようだった『ありがとうございます』が心の底から言えます」と語ります。

 自分の店を持ち、やりたいことに打ち込めるようになったという種生さんは、これからも「ギョザシエ」として自らの可能性を広げていくつもりです。「ここの餃子は、15年の経験が詰まった僕にしかできないもの。細く長く続け、『餃子といえば、たね屋』といわれる店にしたい」




店名 博多餃子工房 たね屋
所在地 福岡市博多区東那珂3-7-49
営業時間 11:00~19:00(水曜定休)
公式サイト 博多餃子工房 たね屋

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