妊婦さんも安心「加熱寿司」 福岡の女性が食べたい一心で商品化
記事 INDEX
- 妊娠中の「ごほうび」に
- CFは目標額の10倍超に!
- 「いい夫婦の日」に発売
妊娠しても安心してお寿司(すし)を食べたい――。福岡市に住む女性が自身の経験から、生ものに注意が必要な人も気にせず食べられるお寿司を開発しました。宅配で届く冷凍食品で、その名も「加熱寿司」。食の新たな選択肢として広めようと、11月22日に発売します。
妊娠中の「ごほうび」に
加熱寿司は1人前9貫入り。「ごほうび需要」を見込んで木箱で特別感を演出し、配送中に寿司が崩れないように工夫した専用容器を採用しています。長崎県産ブランドのノドグロを用いるなど、素材にもこだわりました。
冷凍で届いたものを電子レンジで3分ほど加熱し、10分待ってから食べます。試食したところ、しっとりした魚の食感と風味があり、生とは異なるおいしさを楽しめます。ボリュームのあるネタとシャリが調和し、冷凍とは思えない味わい。ユズの皮や梅肉が添えられるなど、一つ一つ丁寧に仕上げられています。
価格は、税・送料込みで1人前が6900円、2人前が1万2800円です。
9種のうち、カンパチ、ノドグロ&ウニ、イカ、真鯛(まだい)、ホタテ、サーモンの6種の具体的な調理方法は"秘密"ですが、「ただ焼いたり煮たりしているわけではありません」とのこと。厚生労働省が紹介する加熱の目安「中心部が75℃以上で1分間以上」を満たしているそうです。
加熱のほかに真空、冷凍、配送、解凍など、それぞれの過程でよりよい方法を模索し、100回以上の試作を重ねました。専用トレーも40社以上に相談し、協力してくれる企業をやっと見つけたそうです。寿司職人が目利きして市場で仕入れる魚を使い、鮮度の高い状態で調理していることからも、味へのこだわりがうかがえます。
CFは目標額の10倍超に!
「出産まで、生ものは食べないでくださいね」
加熱寿司を考案した福岡市早良区の渡邊愛さん(31)は、第1子の妊娠が分かった産婦人科でかけられた言葉に衝撃を受けました。妊娠中は免疫機能が低下し、食中毒などのリスクが高まるとされ、加熱した食品が推奨されています。とはいえ、「『おめでとうございます』の次に、そう言われて……。妊娠中は生ものがダメとは知らず、ショックでした」。
お寿司を月1回ほどのペースで楽しんでいた渡邊さん。「ダメだ」と思えば思うほど、食べたい気持ちは高まるばかり。こんなに”お寿司欲”が湧くのは私だけ? ある日、SNSで「妊婦さんOKのお寿司セットがあったら、買いませんか?」とつぶやくと、「いいね」が1日で3000件ほどに。「商品化できたら、いろんな人に喜んでもらえるのでは」という思いが芽生えました。
大手食品会社で営業やマーケティングを経験した渡邊さん。IT企業で製品開発を行う夫・優太さん(33)のサポートも得て、まずは実際に売れるのかを探ることに。都内の寿司店に提案し、2021年1月から、焼いたタチウオなどをそろえた「加熱寿司」を限定販売。2か月ほどで約60件の予約が入り、手応えを感じました。
同年春に出身地の福岡市へ転居し、長男を出産。そんな中で準備を進め、10月に加熱寿司を返礼品とするクラウドファンディング(CF)を実施。目標額20万円に対し、10倍を超える約220万円の支援が249人から集まりました。
「妊婦の夢をかなえてくれて、とてもうれしい」「(妊娠中の)妻の笑顔がやっと見られる」「抗がん剤治療をしていた家族が亡くなる前にプレゼントできた」など、多くの喜びの声が寄せられました。
「本当に、求められていることなんだ。自分の経験が役に立つなら、チャレンジしよう」。会社を辞めて、起業することを決断。市内の人気寿司店の協力を得て、ネタもシャリも容器も改めて見直し、商品化への歩みを着実に進めていきました。
「いい夫婦の日」に発売
優太さんも「多くの人の『困りごと』を解決できる。やらない理由がない」と勧め、共に取り組んでいます。事業開始に向けた仮説検証、デザインや広報の協力者の紹介などに加え、渡邊さんが不在時の長男(1)のお世話も「ウェルカム」と笑顔で担っています。
「いい夫婦の日」に発売される加熱寿司。「妊娠中の妻に何かしてあげたいけど、どうすればいいか分からない夫は多い。プレゼントはその一歩になるはず」と優太さんは話します。「できれば夫婦で一緒に加熱寿司を楽しみながら、子育てをはじめ産後の暮らしを一緒に考えるきっかけにしてもらえれば」
まずは妊婦へのごほうびとしての浸透を目指します。将来的には、病気で生ものを避けなければならない人や、生ものは苦手だけれど寿司を食べてみたい外国人らの需要にも応えていきたいと考えています。
当面、数量限定となる見通しです。販売に関する詳しい情報は、加熱寿司の公式サイトで紹介しています。