風刺コントの人気者は北九州の元看板職人 偶然が導いた「小泉旋風」

"解散"が味方した"小泉旋風"


松下さんと言えば、小泉元首相

 生活の比重は少しずつ看板職人から役者に。すると、福岡公演を控えたニュースペーパーのミニライブに、地元枠で出演を打診された。福本さんとコンビでショートコントを披露したら、公演後に事務所からスカウトされた。1997年に33歳で上京。でも上京したら、肝心のニュースペーパーが解散して消えていた。ニュースペーパーは曲折を経て復活するが、復活のタイミングに乗じてメンバーに潜り込む。すると、解散騒動で空席になっていた小泉役のポストに収まった。とたん、2001年に小泉政権が誕生。ニュースペーパーにも小泉旋風が吹き荒れた。


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 ある政治家のパーティーでのこと。小泉元首相の目の前でネタを披露したら、本人からも「おもしろいねぇ。本物よりうまいねぇ」と大好評。実は、松下さんの登壇は小泉元首相には知らされていなかった。しかし、X JAPANの「Forever Love」が流れると、本人も曲につられて登壇。二人の小泉が舞台上で鉢合わせして笑いを誘った。その頃はあちこちのテレビ局からも声がかかった。

政治に勢いがないと芸人としてつまらない


 「民主党が政権を取らなきゃ良かったのに」。そんなことをさらっと言う。与党と野党が拮抗した危険なバランスが、芸人的に面白かった。自民党下野の前夜、民主系の集会で鋭いネタを披露する機会も多かった。今ではそういった営業は減り、日本青年会議所(JC)や自民党議員のパーティーに呼ばれることが増えた。ただ、「そんなに面白くならないんですよね。ネタも多少は『忖度』しないといけないし。なんだか熱量がね」。日本の政治に勢いがない。それが芸人としてつまらない。

 国民の「しょうがねえか」という雰囲気が、今の長期政権につながっていると指摘する。「あれ(民主党)よりはましだろうという感じがしますよね」。芸人としてウケたいという気持ち。世間の政治離れに不安もある。「だって野党は揚げ足取りしかできないじゃない。民主党政権の反省を踏まえて『今度こそ』ってやればいいのに」。口をつく言葉はネタ同様に厳しい。


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 ニュースペーパーのコントも「長期政権」が続く。「(安倍首相役の)福本も苦労してるんじゃないかな。マンネリになっちゃうから」。グループ内にも新しいキャラクターを演じたいという欲求がたまっているという。「僕らは活動家じゃないから、権力をたたくという発想はまったくない」。たたくつもりはなくとも、ネタの合間には「そうだっ!!」という反応がほしい。攻める側に元気がないと風刺は盛り上がらない。「ウケたい」。芸人としての性分だ。

 松下さんいわく、安倍政権からは「不祥事をやらかした人しか」目立つキャラクターが出てこない。安倍政権より前は、自民党内や大臣にも演じがいのあるキャラクターがいたが、「安倍さんだけが目立って、なんだかやりにくい」。まねたくなる人物がいない。

「勝手に」北九州観光大使


「北九州出身だから福岡公演は楽しみ」と語る

 北九州はあまり好きではなかったという。上京してようやく良さに気づいた。すぐ山に登れ、すぐ釣りができた。平尾台では鍾乳洞を探検して迷子になりかけた。無人島まで泳ごうとして沖に流されたこともあった。小倉を流れる紫川を河口から上流にある滝まで川に入ったまま踏破もした。「福岡市に比べて『陰キャ』な感じがするけど、根が温かくて、なんか落ち着くんですよ」。上京して"和解"したふるさとに向ける目は温かい。

 今では北九州の良さを周囲に広める「勝手に観光大使」だ。2020年1月17、18日には「JR九州ホール」(福岡市博多区博多駅中央街)での福岡公演が控えている。地元出身メンバーとして紹介されるのは嬉しいそうだ。「僕は北九州出身を誇りに思っています。福岡公演は思い入れが強いから、ほかの会場と差別するわけじゃないけど、力が入っちゃいますよね」。福岡県民に向けたかしこまったメッセージを求めると口べたが顔を出す。「気が小さいんで、誰かに変身しないとうまくしゃべれない(笑)」。この男、起用なのか不器用なのか。


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