風刺コントの人気者は北九州の元看板職人 偶然が導いた「小泉旋風」

記事 INDEX

  • オバマよりトランプが好き
  • 看板職人から役者の道へ
  • 小泉元首相と共演も

 社会風刺コント集団「THE NEWSPAPER(ザ・ニュースペーパー)」。きわどい風刺コントで世相を斬る。その"口撃"は時の権力者だろうと容赦ない。だからか、最近はあまりテレビ局から声がかからなくなったとも。それでも彼らの公演は常に活況だ。「忖度」なのか、「コンプライアンス」なのか。最近、物言いにくい「空気」がありはしないか。小泉元首相やトランプ大統領のネタで知られるニュースペーパーの古参メンバーで、北九州市・小倉出身の松下アキラさんに聞いてきた。


松下アキラさん

1964年、福岡県北九州市出身。北九州市で看板職人をしていた頃に演劇と出会う。福本ヒデさんとともに舞台に立ち、ニュースペーパーの事務所からスカウト。持ちネタは小泉ジュンイチロウやトランプ、リーチ・マイケルなど。緻密な役づくりで舌鋒鋭く世相を斬る。


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トランプさんは格好つけてないから好き


近年、はまり役の一つとなったトランプ大統領

 「僕ってオバマさん嫌いなんですよ。ずっと演じてきたんですけど」。素顔の松下さんは物静かで丁寧、ぼくとつとした雰囲気すら漂う。この人が小泉元首相やトランプ大統領を演じ、言いたい放題やっているのか。あまりのギャップに疑いたくなる。「演じる人物のパーソナリティーに、自分の感情を乗っけます」。だからか、彼が演じるトランプ大統領は、オバマ前大統領への批判がやたらに長い。政治信条は「右とか左とか全然ない」。その時々に納得できないことをネタに盛り込む。例えば沖縄の基地問題。「米軍がほんとに出て行ったら、沖縄の人も困るんじゃないですか。トランプ大統領を借りて言っちゃいます」。観客のウケはイマイチだという。でもそれでいいそうだ。笑いの中に緊張感をもたらすのだという。


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 松下さんはトランプ大統領のキャラクターを気に入っている。「見てておもしろい。いいところも悪いところもさらけ出して、格好つけてないところが好き」。人気者オバマが嫌いだって? 「格好つけているだけにしか見えなくて。演説もトランプさんに比べて自分の言葉が見えない。そんな雰囲気がする」。何人もの権力者を模写してきた観察眼がそう言わせる。ただ、トランプ大統領にはこうも付け加える。「遠くから見ている分にはね」。


ニュースの旬は度外視する

 ネタはすべて自分で考えている。松下さんが演じる小泉元首相はいつも出番が後半になる。彼が出演する前には、安倍首相も、菅官房長官も、息子の小泉進次郎環境相もみんな出番を終えている。彼らが舞台で言いそうなことをすべて排除した上で、ネタづくりが始まる。自分が先に舞台に立つことを想像してみるが、「でも一緒だな。気を使うから、僕」。

 旬な時事ネタは口にするだけで笑いになるという。でもだんだんとウケなくなる。だから、松下さんのネタづくりはニュースの旬をいったん度外視する。そもそもニュースを知らなくても笑えることを心がけている。観客が時事ネタに詳しいとは限らない。「芸人だし、やっぱりウケたいじゃないですか」。ニュースを瞬時に理解させ、笑いに変える。掲げるハードルは高い。

 さらに、ニュースペーパーの客層は老若男女、幅広い。時事ネタに詳しい客も、詳しくない客もいる。ワイドショーを見ている客がいれば、見られない勤め人もいる。微妙なさじ加減が松下さんの技だ。マニアックにならないよう、かといって浅くならないように。


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飲み屋のサラリーマンがバロメーター


素顔の松下さんはとても丁寧で温和だ

 どうやってネタをつくっているのか。「ひどい老眼で。新聞は取ってるんだけど、ほとんど読まない」。ネットニュースもあまり見ないという。松下さんが気にしているのは、飲み屋や電車内で話すサラリーマンの会話だ。一人で飲み屋に出かけ、不満たっぷりなサラリーマンの言葉に聞き耳を立てる。そこから現代の世相が見えてくる。

 「前は私の後だったから頼りなく見えて、今回は民主党の後だから頼もしく見えるだけ」

 第二次安倍政権発足後、松下さんが小泉元首相に扮してよく使っていたフレーズだ。どうしたら観客が膝をたたくフレーズを生み出せるのか。「あーでもない、こーでもないと常に考えていると言葉が降ってくるんですよ」。いつも難しそうな顔をして考えている。本番直前に思いつくこともあれば、公演後にやってくるときも。膨大にあるネタは、古いものからどんどん捨てていく。メンバーに「それ面白いね」と言うと、「あんたのネタだよ」と返ってくることも多い。グループ内では数多くの役を断らず引き受け、そつなくこなすタイプ。「便利屋? 結果的にはスキルが上がっているはず」と笑う。


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寡黙だった青年を変えた舞台経験

 北九州市・小倉出身。高校を卒業してデザイナーの専門学校に進学。学生時代にアルバイトをしていた看板屋にそのまま就職した。店の屋号や鉄道高架下の注意書き、福岡ドーム(ヤフオクドーム)の看板も手がけたという。ダイエーやそごう、国鉄の仕事を多く請け負っていた。北九州市内のJRの駅に松下さんが手がけた看板が最近まで残っていたそう。しかしそれも、駅のリニューアル工事とともになくなった。

 看板職人の頃、たまたま舞台美術の手伝いをしていた地元の劇団から、役者の数あわせで出演を頼まれた。話すことが大の苦手で、高校時代はほとんど誰とも話さずに過ごした。専門学校を経て看板職人になってもそれは変わらなかった。「人生で一番しゃべったんじゃないかな」。自分ではない誰かを演じた開放感。観客なんてほとんどいない舞台だったが、それが出会いだった。

 それから、看板職人をしながら定期的に舞台に立った。コメディーを書いたら笑いが取れた。それまで人を笑わせたことはなかったのに、誰かを演じたら笑顔にできた。たまたま同じ劇団に所属していたのが福本ヒデさん。後に、ニュースペーパーで安倍首相を演じることになる。


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