工場をカフェにリノベーション 直方の夫婦が育む「実り」の空間
記事 INDEX
- 「好きなことを一生懸命に」
- イギリスの田舎をイメージ
- SNSを見た女性たちが来店
工場だった建物をカフェにリノベーションした「Shop and Cafe CROP(クロップ)」が昨年末、福岡県直方市にオープンした。武骨な外観の建屋に入ると、欧州調のアンティークな調度品や洗練された雑貨が並ぶ。工場跡とは思えない、おしゃれなスポットとしてSNSなどで話題が広がっている。
「好きなことを一生懸命に」
カフェは、JR福北ゆたか線沿いの住宅街にある。直方駅から歩いて5分ほどで、電車の車窓からも見える。
元々は鉄工所として建てられた。20年ほど前、カフェのオーナー吉田高子さん(49)の両親が買い取り、2年前までは精密機器の工場などとして利用していた。
しかし、経営難などで工場は閉鎖することに。ちょうどその頃、吉田さんだけでなく、夫の裕史さん(54)もコロナ禍などの影響から仕事を失うことになった。
幼い頃、絵本に描かれた欧州の情景を目にして、その素朴な田舎の風景が好きになったという吉田さん。物心がついてからも、写真や絵を見ては憧れを募らせた。
「残りの人生、好きなことを一生懸命やりたい。空いている工場で楽しいものを」と、カフェと季節の花々やガーデニング用品を扱う店舗をクリスマス前に開いた。
イギリスの田舎をイメージ
吉田さんが特に憧れを抱くイギリスの田舎の民家をイメージした店内。わらを積む時に使うはしごや木で作ったスコップ、金属製の牛乳缶など19世紀頃に使われていたものが、さりげなく配置され、店内に彩りを添えている。
入り口には、100年以上前にイギリスの公共施設で使われていた重厚な木製の扉を設置した。「『工場跡のカフェってどんなところ?』って想像しながら来てくれる人も多いと思います。扉を開けると、想像をくつがえしてくれる空間が広がっている。そんなスペースにしたいんです」とはにかむ。
実は、イギリスを訪ねたことはない。だからこそ、異国の田園地帯のイメージを自由に膨らませて、店内を華やかに演出することができるのでは――と思っている。「でもやっぱり、いつかは行ってみたいですね」
店で一番の人気メニューは、日替わりの「気まぐれ季節のデザートプレート」。開店まもない頃、「頑張った自分へのご褒美に」と仕事帰りの50歳前後の女性が、いつも注文してくれていた。
市販の高級ケーキを用意していたとはいえ、同じ品を出し続けるのが「心苦しかった」という吉田さん。「見た目が美しく、罪悪感を抱かせない甘いケーキを日替わりで提供したい」と、連日夜中まで調理と試食を繰り返してオリジナルを完成させた。その女性客は、差し出されたオリジナルのプレートをとても喜んでくれたという。
この人気商品、早い時間に売り切れてしまうことも多い。夕刻いつもの時間。「まだ、プレートある?」と、今もよく立ち寄ってくれる、なじみの声の主をがっかりさせたくないと、また新しい悩みができたそうだ。
SNSを見た女性たちが来店
「SNSの動画で知りました。こんなおしゃれなカフェが近くにあったなんて、びっくり」。福岡県小竹町から姉妹で訪れた会社員の杉芽結(めい)さん(22)は、妹と一緒に福岡のカフェをチェックするのが日課だという。
「元々は工場というので、中はどうなっているのかなって楽しみに来ました。料理もすごくかわいい」と声を弾ませ、様々なアングルから店内を熱心に撮影していた。
店名の「CROP」は、農作物を意味する言葉。試行錯誤を重ねながら、実りある店に育っていけるようにという願いを込めたそうだ。
「次はこんなケーキはどうだろう」「今度あんなドライフラワーを作ってみよう」――。店を始めてからは「夢の中でもアイデアが思い浮かびます」と吉田さん。「毎日やりたいことがいっぱい」と、前を向く笑顔がとてもまぶしかった。