納得のブレンド茶を自信をもって 飯塚市にある「一枝茶店」

「世界に一つだけのブレンド茶を提供したい」と倉智さん

記事 INDEX

  • 和菓子の世界から
  • 産地に足を運んで
  • 少しでも関心を!

 英語の辞書に「matcha(抹茶)」の文字が載り、日本茶に国内外から光が当てられている。福岡県飯塚市にある喫茶店「一枝茶店(ひとえさてん)」は、「世界に一つだけのブレンド茶」を目指し、こだわり抜いた一杯を提供している。

和菓子の世界から

 店は福岡市南区の倉智江梨奈さん(28)が一人で切り盛りする。外壁や内装を白で統一した建物を訪ねると、お茶に対する倉智さんの強い情熱、いくつものこだわり、そして独自の世界観を感じることができた。


ガラス張りの一枝茶店


 京都で和菓子を学び、東京で和菓子の仕事に携わっていた倉智さん。和菓子と一緒にお茶を提供する中で、その伝統や奥深さを知り、次第に関心は和菓子からお茶へと移っていった。退職して半年間、福岡県八女市や鹿児島県のお茶農家で住み込みで働き、2019年には独学で日本茶インストラクターの資格を取得した。


納得の一煎にこだわる倉智さん


 「こんな飲み方もあるんだって、いろんな味わい方があることを知ってほしい」。自身でブレンドしたこだわりのお茶を提供する店を持ちたいという思いが抑えきれなくなり、かつて花屋だった場所に23年に店を開いた。


棚に並ぶカラフルな試飲のお茶


 福岡市の自宅から片道1時間半以上かけて、店のある飯塚市まで毎朝通う。筑豊の地にこだわる理由は"水"にあるそうだ。嘉穂アルプスの恵みがもたらす井戸水。「お茶の良さや味わいがより出やすい。飲み比べると、分かる人には分かります」と話す。


良質な地下水に恵まれた嘉穂アルプス


 特に水出しになると香りの立ち方が違うそうで、2、3日に1度、親類が管理する福岡県嘉麻市の井戸へ水をくみに向かう。


水出しした白茶


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産地に足を運んで

 店では八女市星野村の八女茶や、長崎や鹿児島の煎茶など約20種のお茶を取り扱う。茶葉は市場を介して入手するのが一般的だが、倉智さんは産地に直接出向き、自分の目で確かめて生産者の話を聞く。納得したら、それぞれの農家から茶葉を買い付けるという。


摘み取られた新茶


 それぞれの農家が求める価格で仕入れるため、通常の流通価格の2倍近くなることもある。それでも「コストよりも味」と意に介さない。


試飲のために水出しされたお茶


 倉智さんが自信を持って提供するのが、季節や地域の特産を生かしながら淹(い)れるブレンド茶だ。1、2煎(せん)目はストレートで、3煎目は「飽きちゃうし、季節感も味わってほしいので」とブレンド茶を提案する。


フキノトウのブレンド茶


 客との会話から好みの味のヒントを得たり、その日に出したお菓子に合わせたりして、解説を交えながら「世界に一つだけのお茶」を提供する。今はフキノトウや花わさび、ユズなどをブレンドの素材に取り入れているそうだ。


ブレンドに使うイチゴやユズの皮


 店のカウンターには、かつて中学校の理科室にあったような上皿天びんが置かれている。分銅を使って茶葉を正確に量るのは、「1グラム違えば、味があきらかに変わる」からだ。「お湯の温度と淹れる時間、『これでいこう』と決めた納得の味で、自信をもって提供したい」と話す。


提供するお茶は上皿天びんを使って丁寧に量る


少しでも関心を!


 SNSでは、「一人でも入りやすく、落ち着ける」などの投稿が見られる一枝茶店。地元のお茶好きの人が中心の客層の中でも、若い男性客のリピーターが目立つという。仕事の合間に立ち寄るというより、休日にコーヒーを楽しむような感覚で、ゆっくりとした時間を一人で過ごすために訪れる、という人が多いそうだ。


白を基調とした洗練された店内


 「少しでもお茶に関心を持ってもらえたら」との思いもあり、玉露や白葉茶の茶殻を生春巻きで提供することも。東南アジアなどで好まれる生茶の漬けものを参考に、倉智さんが考えたそうだ。


ミカンの皮やフキノトウなど、宝石のようにも見えるブレンド茶の素材


 撮影が一段落して、一番人気という白葉茶をいただく。氷を入れた1煎目は透明感ある初めての味で、ほのかな甘さが広がり、次第にお茶の風味が出てきた。


白葉茶の1煎目はアイスで


 2煎目はお湯で。バターのような風味も感じられたが、お茶の渋みがだんだん増してくる。3煎目はミントを入れたもの。ハッカの香りが心地よく、お茶の濃厚な味わいがあとから続いてくる。お茶の余韻をしばらく楽しめた。


2、3煎目はホットで


 倉智さんの思い出話を聞いていると「実は小さい頃から、ジュースとコーヒーが飲めないんです」と打ち明けられた。「ジュースは甘すぎて、飲んでもどんどんのどが渇いて。コーヒーは味が濃くて苦い……」


「家では幼い頃から飲みものといえば、水か麦茶でした」


 「新しい味を作ることが好き」という倉智さん。「自信をもってブレンドしたお茶に、よい反応が見られた時はとてもうれしいです」と話す。「人生で今が一番忙しいけれど、楽しいし、充実しています」と笑顔を見せた。


店の名は地名などから付けた


 今年の八十八夜は5月1日。新茶の摘み取りはもうすぐだ。


「自信を持ってブレンドしたお茶に、好反応が見られた時はとてもうれしい」




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